THine Value 高速インターフェース規格「MIPI」とは?モバイルの枠を飛び出し、自動車にも適用へ

2022.03.16
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 現在電子機器には、さまざまな高速インターフェース技術が使われている。USBやThunderbolt、MIPI、HDMI、DisplayPort、シリアルATA(SATA)、LVDSなどが代表的なところだろう。

 こうした高速インターフェース技術の中には、普及度は高いものの、一般消費者の認知度がかなり低いものが存在する。それはMIPI(Mobile Industry Processor Interface)である。MIPIは2008年に策定された高速インターフェース規格である。歴史は比較的古い。それにも関わらず、「USBやThunderbolt、HDMIは知っているが、MIPIは知らない」という一般消費者が圧倒的に多い。

 なぜなのか。それは、MIPIは携帯電話機やスマートフォンなどのモバイル機器内部において、カメラとSoCの間もしくはSoCとディスプレイの間をつなぐ画像信号用インターフェースとして使われているからだ。つまり、一般消費者が直接触れることができる機器外部には出力されていない。だから知る由もないわけだ。

 ところが例外が存在する。それは電子工作や電子機器の試作、教育などの用途で使われている「Raspberry Pi(ラズパイ)」である。ラズパイでは、その本体と専用カメラ・モジュールを接続する高速インターフェースにMIPIが採用されており、一般消費者が直接触れることができる。ラズパイを利用するユーザーは急速に増えている。そうしたユーザーがMIPIを使いこなすには、その仕様や特性を把握しておく必要があるだろう。

モバイルに特化した規格でスタート

 MIPIは、LVDSなどで採用されている低電圧振幅の差動伝送技術を使うことで高いデータ伝送速度を実現している。ただし、注意すべき点がある。それは、データ伝送速度や伝送方式を定める物理層(PHY)規格が1つではないことだ。実は、MIPIと一口に言っても、物理層規格は複数存在する。

 2008年に策定された最初の物理(PHY)層規格は「D-PHY ver1.0」であり、最大データ伝送速度は1レーン当たり1Gビット/秒である(表1)。D-PHY ver1.0は、ターゲットとなる用途のモバイル機器に最適化した規格だ。最適化のポイントは2つ。1つはシンプルさ。もう1つは低消費電力である。
 
表1 MIPIの物理層規格

 1つ目のシンプルさについては、データ信号とクロック信号を別々の信号ラインで伝送するクロック別送方式の採用で実現した。クロック別送方式は伝送距離が長くなると、信号ラインの長さの違いや特性の違いによってスキューが発生し、データ信号とクロック信号がレシーバ(受信)ICに到着するタイミングがズレるという課題を抱えている。最悪の場合、伝送エラーが発生してしまう。しかし、モバイル機器内部の信号伝送であれば、それほど長い距離を送る必要はない。実際のところ、D-PHY ver1.0で伝送可能な距離は数十cm程度だ。伝送距離よりもシンプルさを優先して、クロック別送方式の採用を決めたと言える。

 2つ目の低消費電力は、差動信号の電圧振幅を±200mVに抑えることで実現した。LVDSは±350mVであるため、電圧振幅を4/7に減らした計算になる。その分だけ、消費電力を抑えられる。もちろん、電圧振幅を小さくすれば、データ信号を伝送できる距離は短くなる。しかし前述のように、MIPIはモバイル機器内部の信号伝送向けであり、データを長い距離送る必要はない。その分を消費電力の削減に振り向けたわけだ。

車載用途に向けた物理層規格が登場

 前述のように、MIPI規格には複数の物理層規格が存在する。例えば、D-PHY ver1.0は現在、「D-PHY ver3.0」へとバージョンアップされている。D-PHY ver3.0は、D-PHY ver1.0と同様に差動伝送の信号振幅とクロック別送方式を採用しているが、これにデエンファシス技術とイコライザー技術を追加することで最大データ伝送速度を1レーン当たり9Gビット/秒に高めた。

 このほか、伝送方式をクロック別送方式からクロックエンベデッド(クロック埋め込み)方式に変更した「C-PHY」と「M-PHY」という2つの規格がある。C-PHYは、スマートフォンのほか、監視カメラやドローンなどに向けた物理層規格である。最大の特徴は、クロックエンベデッド方式に加えて3値伝送方式を採用することで最大データ伝送速度を1レーン当たり6Gビット/秒に高めた点にある。

 M-PHYは、モバイル機器内におけるプロセッサー間通信(IPC:Inter Processor Communication)に向けた物理層規格だ。イコライザー技術や8B10B変調技術などを適用することで、C-PHYと同様に最大データ伝送速度を1レーン当たり6Gビット/秒に高めている。

 D-PHY ver3.0とC-PHY、M-PHYはいずれも、MIPIのターゲット用途であるモバイル機器に向けたものである。新しい伝送技術を採用することで最大データ伝送速度を高めて、モバイル機器向けという範囲の中で新しい使い方に対応した規格と言えるだろう。

 ところが2020年9月に、こうした流れを大きく逸脱した規格が策定された。自動車用途に向けた物理層規格「A-PHY」である。これは自動車内部におけるカメラとディスプレイの間のデータ伝送用途に向けたもの。「機器の内部における高速データ伝送規格」という範疇であるものの、「モバイル機器」という範囲は大きく飛び出した格好だ。

 用途がモバイル機器から自動車に変われば、当然ながら求められる伝送距離は大幅に延びる。そこでA-PHYでは、クロックエンベデッド方式に加えて、デエンファシス技術やイコライザー技術、8B10B変調技術を採用することで、伝送距離を最長15mに延ばした。1レーン当たりのデータ伝送速度は最大2Gビット/秒である。将来的には、最長15mの伝送距離はそのままに、最大データ伝送速度を1レーン当たり最大6Gビット/秒に高める予定である。

V-by-One HSで問題を解決

 このようにMIPIの物理層規格は現在、当初のD-PHY ver1.0から大きな進化を遂げている。しかし現時点(2022年2月)でも、初期段階のD-PHYを採用したアプリケーションが少なくない。その代表例が前述のラズパイである。ラズパイ本体と専用カメラ・モジュールを接続するインターフェースには依然として、物理層規格がD-PHYのMIPIが採用されている。

 D-PHYの最大データ伝送速度は、ver1.0であれば1.0Gビット/秒、ver1.1であれば1.5Gビット/秒であり、一般的な用途であれば十分に高いデータ伝送速度だろう。しかし、数十cmという伝送距離は、用途によっては十分な長さとは言えない。例えば、ラズパイを使って産業用IoTシステムを構築する場合だ。果樹園での作物の監視であれば、カメラ・モジュールを果樹棚に取り付け、地上に置いたラズパイとの間をケーブルで接続する。このとき、物理層規格がD-PHYのMIPIでは、伝送距離がまったく足りない。

 この伝送距離の問題を解決する方法の1つが、高速インターフェース技術「V-by-One HS」の採用である。V-by-One HSの使い方はこうだ。まずはカメラ・モジュールに接続したトランスミッタ(送信)ICで、D-PHYに対応したMIPI信号をV-by-One HS信号に変換する。その後、この信号をイーサーネット・ケーブルなどで送信し、離れた場所あるラズパイに接続したレシーバ(受信)ICでV-by-One HS信号をMIPI信号に戻すわけだ。

 V-by-One HSはMIPIと同様に、低電圧振幅の差動伝送技術を使った高速インターフェース技術である。しかし、MIPIとは異なりモバイル機器に特化しておらず、汎用的な高速インターフェース技術である。電圧振幅は±600mVであり、クロックエンベデッド方式を採用している。さらにデエンファシス技術とイコライザー技術を採用しているため、最大データ伝送速度は1レーン当たり4Gビット/秒と高く、伝送距離は最長約15mと長い。従って、D-PHYに対応したMIPIが抱える伝送距離の問題を一気に解決できる。

簡単に使える長距離伝送キット

 現在、ザインエレクトロニクスは、ラズパイ本体と専用カメラ・モジュールを結ぶMIPIインターフェースを延長する用途に向けた長距離伝送キット「Cable Extension Kit for Raspberry Pi Camera(製品型番はTHSER101)」を製品化している(図1)。このキットを使えば、伝送可能な距離を大幅に延ばせる。標準的なイーサネット・ケーブル「CAT5e」を使った場合は最長15mに、シールドを施した品質の高いイーサネット・ケーブルを使えば最長20mに延ばすことが可能だ。
 
図1  長距離伝送キット

 長距離伝送キットは、送信ボードと受信ボードで構成されている。送信ボードにはMIPI (MIPI CSI-2)信号をV-by-One HS信号に変換するトランスミッタ(シリアライザー)IC「THCV241A」を、受信ボードにはV-by-One HS信号をMIPI CSI-2信号に戻すレシーバ(デシリアライザー)IC「THCV242」を搭載した。

 使い方は至って簡単だ。カメラモジュールを送信ボードに接続し、ラズパイ本体を受信ボードに接続する。そして、送信ボードと受信ボードをイーサネット・ケーブルで結ぶだけで伝送距離を延長できる。ユーザーはプログラミングする必要はなく、プラグアンドプレイで使える。

距離延長向けICも複数用意

 伝送距離を延長する機能をモバイル機器に組み込む必要がある場合は、単体の高速インターフェース用ICを採用するのが最適だ(図2)。
 
図2 ドライブ・レコーダーの例

 現在、ザインエレクトロニクスでは、D-PHY規格に準拠したMIPI CSI-2信号をV-by-One HS信号に変換して送信するトランスミッタICや、受信したV-by-One HS信号をD-PHY規格に準拠したMIPI CSI-2信号に変換して出力するレシーバICをそれぞれ3製品ずつ用意している(表2)。以下で、それぞれのICを紹介しよう。
 
表2 V-by-One HSとMIPIに対応したトランスミッタ/レシーバIC

 トランスミッタICの3製品は、「THCV241A」と「THCV241A-P」、「THCV243」である。THCV241AとTHCV241A-Pはいずれも、MIPI CSI-2信号の入力は4レーンで、V-by-One HS信号の出力は2レーンである。V-by-One HS信号の最大データ伝送速度は4Gビット/秒と同じだが、MIPI CSI-2信号の最大データ伝送速度が異なる。THCV241Aは最大1.2Gビット/秒、THCV241A-Pは最大1.5Gビット/秒である。パッケージはいずれも、実装面積が5mm×5mmのQFN40である。

 THCV243は、実装面積が2.9mm×2.1mmと小さいCSP35に収めたことが特徴だ。このため小型カメラへの適用に向く。MIPI CSI-2信号の入力は最大4レーン、V-by-One HS信号の出力は1レーンである。MIPI CSI-2信号の最大データ伝送速度は1.2Gビット/秒、V-by-One HS信号は最大4Gビット/秒である。

 レシーバICの3製品は、「THCV242A」と「THCV242A-P」、「THCV244A」である。THCV242AとTHCV242A-Pはいずれも、V-by-One HS信号の入力は2レーンで、MIPI CSI-2信号の出力は4レーンである。V-by-One HS信号の最大データ伝送速度は4Gビット/秒と同じだが、MIPI CSI-2信号の最大データ伝送速度が異なる。THCV242Aは最大1.2Gビット/秒、THCV241A-Pは最大1.5Gビット/秒である。

 THCV244Aは、V-by-One HS信号の入力を4レーン備えていることが特徴だ。このため、自動車のサラウンドビューなどのように複数のカメラで撮影する用途に向く。MIPI CSI-2信号の最大データ伝送速度は1.2Gビット/秒、V-by-One HS信号は最大4Gビット/秒である。パッケージは3製品いずれも、実装面積が9mm×9mmのQFN64である。

以上