THine Value MIPIカメラのケーブル延長設計期間を大幅に短縮、組み込みカメラ向けSerDesスターターキット

2022.10.25
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 カメラ機能を組み込んだ産業機器は少なくない。代表的なところでは、工場の製造ライン向け検査/測定装置や、セキュリティ・カメラ、医療機器、物流用搬送システムなどが挙げられるだろう。さらに身近な例ではカメラ機能が搭載された自動販売機も登場している。
 そのようなカメラ機能を組込んだ産業機器を開発するエンジニアにとって頭を悩ます問題のひとつがカメラ・インターフェースの選択、そしてそのカメラ・インターフェースの取扱いであろう。産業機器は外形寸法が比較的大きいものも多く、カメラ・モジュールから出力される映像データの伝送距離を延ばしたいケースも生じる。その一方で、今日、組み込みカメラ・システムの分野で広く使われ始めているカメラ・インターフェースであるMIPI CSI-2は、高速対応・低消費電力といった強みを持つ反面、伝送距離は長くても30cmほどしかない。このため、何らかの方法で伝送距離を延ばす必要に迫られる。
 どのような方法を使えばいいのか。その方法のひとつが長距離伝送に対応したSerDes(サーデス、シリアライザ”Serializer”とデシリアライザ”Deserializer”を組み合わせた用語)を活用する方法である。具体的には、延長したい伝送路の前後、カメラ・モジュール側にトランスミッタICを、カメラで取得した画像を取り込むシステム側にレシーバICを配置することでケーブルの延長を可能にする(図1)。
 
図1 長距離伝送対応インターフェースを介してケーブルを延長

 しかし、ここで1つの問題に遭遇する。それは「どうやって設計初期段階でそのカメラ・システムが十分な伝送距離を確保して動作できているかを確認するか」という問題である。ハードウェアを揃え、ソフトウェアを揃え、設計・試作を進めてようやくパフォーマンスが確認できたところで、適切に動かない、伝送距離が足りない、ということが判明する事態に陥れば、再設計を強いられる。これでは多くの時間とコストが無駄になってしまう。

設計初期段階の評価に最適化された評価キットがなかった

 こうした事態を避けるには、設計初期段階であらかじめ動作確認や、伝送能力の評価を実施することが望ましい。つまり、採用予定のイメージ・センサを搭載したカメラ・モジュールやトランスミッタIC/レシーバIC、ケーブルなどを実際に組み合わせて映像信号を伝送してみることで、問題なく動作するか、必要とする距離を送れるかどうかを確認するわけだ。
 SerDesをラインアップする半導体メーカーはいずれも、こうした事前評価をサポートするために評価ボードを提供している。例えば当社(ザインエレクトロニクス)はトランスミッタIC「THCV241A」を搭載した評価ボードとレシーバIC「THCV242A」を搭載した評価ボードをそれぞれ提供中だ。
 ただしこの評価ボードは、設計初期段階で活用しようとしても、なかなか一筋縄にはいかない。評価に着手する前の段階でハードウェアとソフトウェアの両面で多くの手間が掛かってしまうのだ。

評価の前段階からハードとソフトの開発が必要に

 具体的にどのような手間が掛かるのか。
 まずハードウェアの観点では、現在の評価ボードは特定の市場、アプリケーションを指向しないボード仕様となっており、汎用性が極めて高い。例えば、MIPI CSI-2の入出力コネクタにはピン・ヘッダーを採用しており、工作しやすい利点がある反面、工作なしにそのまま接続可能なカメラ・モジュールや画像取込プラットフォームは基本的に存在しない。加えて、長距離伝送部にあたるV-by-One HSの入出力コネクタも汎用性の高いSMAコネクタを採用しており、ユーザーが任意のコネクタに変換するボードを作成・接続するには便利な仕様だが、SMAコネクタに接続し長距離伝送に対応するケーブルは稀だ。従って、ユーザーが事前評価のために特定の機器やケーブルを接続しようとしても、ハードウェアの工作を避けて通れない。
 次にソフトウェアの観点では、カメラ・モジュール、SerDes 、画像取込プラットフォームのいずれも、動作させるためには設定作成・環境構築が求められる。トランスミッタIC/レシーバICを例に取ると、映像信号のデータ伝送速度および映像信号/制御信号の伝送路構成に合わせて、レジスタ・コードを記述する必要がある。通常、設計後の手戻りを抑えるために事前評価をするものだが、このように事前評価のために多くのリソースを割くようであれば本末転倒になりかねない。 

画が出る状態から始められる

 そこで当社は、産業機器向け組み込みカメラにおけるSerDes適用にかかる時間・コスト負担の低減に主眼をおいた「MIPIカメラSerDesスターターキット」を準備した。ハードウェア構成は、V-by-One HSに対応したトランスミッタIC「THCV241A」を搭載した送信ボードと、レシーバIC「THCV242A」を搭載した受信ボード、RJ-45コネクタを使用したイーサネット・ケーブルである。送信ボードに対応するカメラ・モジュールを、受信ボードに指定のグラバー・ボード(画像取込装置)をそれぞれつなぎ、送信ボードと受信ボードの間をイーサネット・ケーブルで接続して使う(図2)。このキットを使えば、ハードウェア面の開発や、ソフトウェア面の開発・環境構築に手間を取られることなく、初めから画が出る状態でSerDesの評価に着手できる。
 
図2 「組み込みカメラ向けSerDesスターターキット」のシステム構成

 それでは、どのようにして画が出るまでのハードウエア・ソフトウエア両面の開発・環境構築を不要にしたのかを説明しよう。
 まず、ハードウェア面は、対応可能な市販カメラ・モジュールと画像取込環境を指定し、接続する送信ボード、受信ボードのコネクタをあらかじめ合わせ込んだ。次に、ソフトウェア面は、その動作に必要なソフトウェア一式を確保(※当社もしくはサードパーティから提供)することでユーザーでの準備を不要にした。対応可能な市販カメラモジュールとしては、シキノハイテックの130万(1.3M)画素製品に加えて、独FRAMOSの200万(2M)画素製品と、500万(5M)画素製品、800万(8M)画素製品の計4製品をラインアップした(図3)。いずれも各社から産業機器向け組み込みカメラ・モジュールとして提供されている製品である。画像取込環境としてのグラバー・ボードは中国DOTHINKEYの製品を指定した。同社のグラバー・ボードは中国市場で広く使われており、価格対性能比(コスト・パフォーマンス)の高さに定評がある。(※グラバー・ボードとカメラ・モジュールは本キットとは別手配が必要)
 
図3 対応カメラ・モジュールラインアップ

 さらに、送信ボードと受信ボードの両方に載せる長距離伝送ケーブルの接続コネクタは、産業機器分野で広く使用されているRJ-45を採用した。RJ-45を採用するイーサネット・ケーブルは入手性がよく、CAT6、CAT7といった複数の伝送品質グレードのケーブルを1本から入手することも容易だ。ケーブル長についてもラインアップが豊富であることに加え、所望の長さのケーブルを比較的容易に自作できる点も伝送評価のうえではポイントが高い。なお、本キットには動作確認用のケーブルを同梱する。
 こうしてユーザーは本キットを活用することで画が出る状態からSerDesの事前評価、そして、イーサネット・ケーブルを入れ替えして伝送能力の確認、ケーブルの初期検討を進められるようになる。特にユーザーが量産設計でもRJ-45コネクタ、イーサネット・ケーブルを適用する場合は、有効性の高い評価結果が得られることになる。

リファレンス・デザインとしてのスターターキット

 SerDesの事前評価において実現性が確認できれば、その後はユーザー案件ベースの設計作業に移行する。いわゆる「量産設計」への移行である。この設計作業でも本キットが活躍する。
 当社は、本キットに同梱する送信/受信各ボードの回路図、BOM(部品表)ならびに、「THCV241A」、「THCV242A」のレジスタ・コードもユーザーに提供する。そうすることで、画が出る状態のハードウェア/ソフトウェア環境は、これらのデータと一体となって「画が出る正解」として、量産設計時のリファレンス・デザインとしても機能することになるのである。ユーザーは「正解」と任意の設計とを照らし合わすことができるようになり、検証やデバッグも容易になる。

量産設計移行をバックアップ、GUIレジスタ生成ツール

 本キットの構成における「THCV241A」、「THCV242A」のリファレンス・レジスタ・コードに加えて、レジスタ・コードの自動生成が可能な専用のGUI(Graphical User Interface)ツールの提供も同時に開始する(図4)。このGUIツールを使えば、ユーザーが選択した任意のカメラ・モジュールや周辺機器の構成に対応するリファレンス・レジスタ・コードを自動生成できる。従来は、データシートやアプリケーション、レジスタ・マップを読み込んで、ほぼゼロからコードを記述する作業が必要だったが、このGUIツールを使えばそうした作業負担が大幅に削減できる。
 
図4 GUIレジスタ生成ツール

 以上、これまでに述べたプロセスを整理したのが図5である。スターターキットは、ユーザーのSerDes導入プロセスを段階的に分解することで、その障壁を下げることに挑戦している。
 
図5 スターターキットが提供するSerDes開発プロセス

今後も様々なカメラニーズに応えるラインアップ展開を予定

 スターターキットではデフォルト状態での正常動作を確保するために、対応可能なカメラ・モジュール、ケーブル(コネクタ、ハーネス)、グラバー・ボード、それぞれの構成をあらかじめ固定した。その結果として対応できるラインアップやニーズが限定されてしまう点も否定できない。今回、第一弾のスターターキットをリリース後もユーザーの声を聞きながら、ラインアップの選択肢を順次拡充していく予定である。

以上

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