THine Value 1kmの長距離伝送を短期間で開発出来た方法とは?光インターフェース搭載水中カメラ開発事例

2019.11.26
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産業用カメラ・メーカーのアイジュール(iDule)。これまで順調にビジネスを拡大させてきたが、最近になって中国や台湾、韓国などのアジア・メーカーが台頭。これによって産業カメラ市場の競争が激化してきた。このままではジリ貧だ。そこで同社は、新市場の開拓に乗り出した。

課題


産業用カメラの単価が急落

産業用カメラ・メーカーのアイジュール(iDule)。同社の強みは技術力にあります。それを生かした光インターフェース搭載の産業用カメラでは、業界のけん引役です。

現在、同社の社長を務める川村久雄氏は悩んでいました。5~6年前ぐらいから、産業用カメラの単価が急速に下落し始めたからです。「かつては30万円で売れていた製品が、最近では6万円程度まで急落した」と苦しい胸の内を打ち明けます。

この状況を脱するには、産業用カメラの新市場を開拓するしかありません。もちろん、ドローン向けカメラという選択肢は、早い段階に頭に浮かびましたが、すでに多くのメーカーがドローン向けカメラ市場に参入しています。遅れて参入したところでビジネス上の旨味はほとんどありません。

「上がダメなら下。そうか、空がダメなら海をターゲットにしよう」水中や海中を撮影するカメラはすでに実用化されていますが、ドローン向けカメラほど大市場には育っていません。そうであれば、新しいアプリケーションの開発を進めると同時に、水中カメラを設計すれば、新市場を開拓できる可能性があると考えたのです。
 

夜の水族館をライブ放送

川村氏は、水中カメラのアプリケーションをいくつか考えました。1つは、海底の探査です。日本周辺の海には、メタンハイドレードなどの資源が眠っているという様々な報告があります。果たして、どのくらいの量があるのか。これまで、それを調査するには高いコストがかかる「深海探査艇」が必要でした。しかし、画像伝送インターフェースを長くすれば、水中カメラを沈めただけで海底を探査できる可能性があります。
 

もう1つは、水族館を利用した新しいエンターテインメントです。水族館が閉館した夜間に、水槽に沈めた水中カメラで撮影した映像をインターネット経由でライブ中継すれば、愛好家を対象にしたビジネスを展開できるかもしれません。

開発の方向性は定まりました。すなわち、極めて長い画像伝送インターフェースを備える水中カメラの開発です。伝送距離は1kmに設定しました。このためインターフェースは、自動的に光ファイバに決まりました。

早速、開発に取り掛かります。CMOSイメージ・センサーは、フルHD(1920×1080画素)対応で、フレームレートは30フレーム/秒。撮影した画像データはパラレル形式で出力されます。これをシリアル信号に変換して光トランスミッタに入力して光ファイバで長距離伝送。そして、ディスプレイ搭載端末の光レシーバで受信してシリアル信号をパラレル信号に戻します。従って、カメラ側(送信側)にはパラレル・シリアル変換チップが、ディスプレイ側(受信側)にはシリアル・パラレル変換チップが必要になるわけです。

このパラレル・シリアル/シリアル・パラレル変換チップをどう実現するのか。アイジュールは、光インターフェース採用の産業用カメラの設計経験は豊富です。しかし、産業用カメラでは、受信側に画像処理用キャプチャー・ボードを使うのが一般的。つまりアイジュールが開発していたのは産業用カメラだけで、画像処理用キャプチャー・ボードは他社製品を使っていました。これまで受信側の設計を手掛けた経験はありません。
 

コストと時間が掛かる

パラレル・シリアル/シリアル・パラレル変換チップの選択肢は2つありました。1つはFPGAで実装する方法。もう1つは、米国のアナログ半導体メーカーが製品しているSerDes(シリアライザ/デシリアライザ)チップを使う方法です。

しかし、いずれも問題を抱えていました。FPGAで実装する方法は、ハードウエア設計とソフトウエア設計が必要なため、開発に費やすコストが大きく、期間が長くなってしまいます。さらに受信側の設計経験がないため、FPGAに載せる受信用IPコアを持っていません。これを入手するとなると、さらに大きなコストが掛かります。

SerDesチップを使えば、ハードウエア設計の負荷は大幅に軽減できます。しかし、データシートを読み込んで、レジスタを設定するという作業をせざるを得ません。設計に費やすコストと時間は、それなりに掛かります。「もっと簡単に、もっと短時間で開発する方法はないのか」川村氏は、頭を抱えてしまいました。
 

課題のポイント

①産業用カメラの新市場として「水中カメラ」に着目
②画像伝送インターフェースに光ファイバを採用して1km伝送を可能に
③パラレル・シリアル/シリアル・パラレル変換の開発に多くのコストと時間が必要