1kmの長距離伝送を短期間で開発出来た方法とは?光インターフェース搭載水中カメラ開発事例 <解決編>

解決のポイント

①4.67Gビット/秒に対応したSerDesチップ「THCS251」を採用
②ソフトウエア設計が不要
③双方向通信対応のため、画像信号と制御信号の伝送が可能

とっておきのソリューション

どうすればパラレル・シリアル/シリアル・パラレル変換機能を、より簡単に、より短時間に設計できるのか。悩む川村氏。しかし悩んでいても、いたずらに時間が過ぎ行くだけです。そこで、かつてLVDSチップを採用したときに様々なサポートをしてもらったザインエレクトロニクスに相談を持ち掛けることにしました。

電話を掛けてから約1週間後、ザインエレクトロニクスの営業担当者がアイジュールを訪問しました。川村氏は早速、今回の懸案事項を丁寧に説明し始めました。話の内容は、課題編で説明した通りです。つまり、水中カメラ開発のキッカケや、将来性が高いと思われるアプリケーション、光インターフェースを採用するに至った理由、パラレル・シリアル/シリアル・パラレル変換機能の設計で苦戦していることなどを一通り説明しました。

ザインエレクトロニクスの営業担当者は、川村氏の話が進めば進むほど、奇妙な感覚に襲われてきました。実は、川村氏がどのような相談を持ちかけてくるのか事前には分からなかったのですが、まだどこにも発表していない新製品のパンフレットをカバンに入れてきたのです。「打ち合わせの最後に、簡単に説明できれば・・・」そう考えていました。

ところが、川村氏の悩みを解決するには、その新製品がピッタリなのです。川村氏が説明し始めたころは半信半疑でしたが、話の中盤ではもう確信へと変わっていました。営業担当者は、話がまだ終わっていないのに、カバンからパンフレットを取り出し、それをイスの背もたれと背中との間に挟んで、テーブルの上に出すタイミングを今か今かと待っていました。
 

まだデータシートが・・・

川村氏の説明が終わると、それを合図に営業担当者はパンフレットをテーブルの上に出しました。

パンフレットに書かれていたのは、高速バス信号トランシーバー「THCS251」というICです。このICには、送信回路(シリアライザ)と受信回路(デシリアライザ)などが集積されており、全二重通信が可能です。GPIO(汎用入出力)の本数は35ビット。これを使ってパラレル信号の入出力が可能です。今回の水中カメラの例であれば、CMOSイメージ・センサーから出力された画像信号を24ビットのGPIOで入力し、残る11ビットの中から数ビットを利用してCMOSイメージ・センサーに対して明るさやシャッター・スピードを調整する制御信号を送るといった使い方ができます。最大データ伝送速度は4.67Gビット/秒と高いので、色深度がRGB各8ビットで、30フレーム/秒の画像信号を送ることが可能です。

性能的には十分です。しかし、気になるのは、ソフトウエア開発の作業負荷と、プリント基板設計の難易度です。特に、高速伝送が可能なSerDesチップでは、プリント基板上の信号配線の引き回しによっては、伝送特性が劣化してしまうケースがあります。川村氏は、その点を営業担当者に質問してみました。

すると、その営業担当者は、「クロック周波数の設定などのピン設定は必要ですが、ほとんどの場合はレジスタ制御などのソフトウエア開発は必要ありません。配線の引き回しも簡単です」と回答。川村氏は、あまりにも順調な展開に呆気にとられていると、営業担当者は畳み込みます。「このICの高速差動信号はDCバランス信号なので、光化や無線化に最適です」

その後、川村氏はいくつかの質問を投げ掛け、すべて納得した上で、採用に向けた交渉に入りました。「まずは、データシートを提供してくれないか」と川村氏。ところが、営業担当者は、「すみません。まだデータシートは完成していません。まさか、こんなに早い展開になるとは思っておらず・・・。まずはサンプル品を急いで準備し、それに合わせてデータシートをお送りできるようにします」そう言い残し、営業担当者はアイジュールを後にしました。
 

載せただけで動いてしまった

数週間後、川村氏の手元にサンプル品が届きました。そこには約束通り、データシートも同梱されており、すぐに設計に取り掛かれる状態です。営業担当者が説明した通り今回の用途であればレジスタ制御は不要です。プリント基板設計も簡単。短い期間でハードウエア設計が完了しました。

数週間後、製造を外注していたプリント基板が仕上がってきました。CMOSイメージ・センサを取り付けて、実際に画像信号を光ファイバで伝送してみます。ディスプレイには、キレイな映像が表示されていました。その後、様々な場所の伝送信号波形を測定しました。波形には何の問題も見つかりません。川村氏は、「本当に、プリント基板に実装しただけで動いてしまった」と最後まで驚きを隠せませんでした。
 

現在、川村氏は、1km伝送が可能な水中カメラの拡販に取り組んでいる最中です。様々な潜在的な顧客が興味を示しているとのこと。近い将来、日本の海や水族館の水槽などで活躍する姿を見ることができるでしょう。ザインエレクトロニクスの「THCS251」については、「非常に良くできているIC。ガンガン、使っていきたい」と語ります。同氏の頭の中には、次なる新製品の構想がありそうです。