THine Value 高速インターフェース「LVDS SerDes」とは?基本原理や 高速、長距離、低ノイズの特徴を解説

2017.10.10
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液晶パネルとロジック・ボードなどの間を接続するシリアル・インターフェース。本連載の第1回目では、その歴史を振り返り、技術の変遷や、性能向上の歩み、アプリケーションの変化などを解説した。第2回目となる今回は、LVDS(Low voltage differential signaling)技術に焦点を当て、その基本原理や特徴、入手可能な製品などについて詳説する。

パソコン市場を15年以上支える

LVDS(Low voltage differential signaling)技術は、シリアル・インターフェースの歴史を切り拓いてきた存在と言って過言ではない。1990年代の中盤に、市場が急拡大しつつあったノート・パソコンに採用され、LVDS SerDes(シリアライザ/デシリアライザ)の出荷数量は一気に増えた。ノート・パソコンの世界的な普及にLVDSが一役買い、液晶モニターの市場立ち上げに大きく貢献したことは間違いない事実だろう。

ノート・パソコン向けLVDS SerDesはその後、パソコン用チップセットや液晶タイミング・コントローラIC(TCON)に集積され、UXGAやWUXGAといった高い解像度の液晶パネルに対応することで、15年以上使われ続けてきた。ノート・パソコンでは2012年頃から、eDP(embedded DisplayPort)に徐々に置き換えられつつある。しかしLVDS SerDesは、最近までノート・パソコン市場を支え続けてきた存在なのである。

だからと言って、LVDS SerDesは、液晶パネルとロジック・ボードを接続する「専用の」インターフェース技術というわけではない。その技術の中身を見れば一目瞭然だが、A点とB点をつなぐ一般的なシリアル・インターフェース技術なのである。従って、さまざまなインターフェース用途で使うことができる。どのような用途で、どのように使えば、LVDS SerDesの性能を十分に引き出すことができるのか。以下で、説明していこう。
 

高速なデータ伝送で活用

LVDS SerDesを使いこなすには、まず物理層であるLVDS技術を理解する必要がある。
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LVDSは1995年に「ANSI/TIA/EIA-644」として標準規格化されたシリアル・インターフェース向け物理層仕様だ(図1)。3.5mAの定電流源で駆動し、100Ω終端時に350mVと非常に低い振幅の差動信号でデータを高速伝送する。データ伝送速度は標準規格の中で、最大で655Mビット/秒と定められている。しかし、これが限界値というわけではない。半導体メーカー各社が独自の工夫を盛り込むことで、3Gビット/秒程度と高いデータ伝送速度をカバーできるようになっている。

LVDSの差動信号波形の具体例が図2である。
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2本の差動信号であるポジティブ信号(A+)とネガティブ信号(B−)を、1.2Vのコモンモード電圧(Voc)を中心に、2つの信号の間を350mVの電位差でスイングさせる。なお、オシロスコープの差動プローブで測定すると、図2のような信号波形が得られる。これは、2つの信号の振幅差((A+)−(B−))である。差動プローブで測定すると、振幅差の計算結果を表示される。しかし、こうした信号波形が物理的に存在しているわけではない。
図3は、LVDSレシーバーのコモンモード電圧範囲である。
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この図から分かるように、LVDSレシーバーは、受信可能なコモンモード電圧範囲が広い。送信(トランスミッタ)側は、1.2Vのコモンモード電圧で出力するものの、受信(レシーバ)側はコモンモード電圧が0.2~2.2Vの範囲であれば信号を受けることができる。
さらに、LVDS SerDesは、低振幅の差動信号でデータを伝送するため、不要輻射(EMI:Electro-Magnetic Interference)を抑えられる。EMIがほかの回路に混入して悪影響を与えるなどの事態を防げるわけだ。これがノイズに敏感な電子機器で採用される理由の一つである。

zoomつまりLVDS SerDesは、高速データ伝送が可能で、データを長距離伝送でき、コモンモード電圧耐性が高く、不要輻射が少ないといったメリットを備えている。最適な用途は、こうしたメリットを必要とする電子機器だといえるだろう。例えば、複合機(MFP)である。
 

LVDS SerDesはMFPの中で、液晶表示用のインターフェースのほかにも、スキャナー(イメージ・センサー)で取得した画像データを、画像処理を実行するメイン・ボードに送る用途で使われている。装置内は比較的距離がある(図4)。LVDS SerDesであれば、スキャナーとメイン・ボードが離れていても問題ない。使用するケーブルのスキューや電力損失の大きさにもよるが、細いケーブルで数m程度は問題なく伝送できるからだ。筐体内で高速データ伝送が必要な電子機器では、このようにLVDS SerDesが活用されている。

スキューやコモンモード電圧に強い

現在、LVDS SerDesは、さまざまな製品を入手できる。ザインエレクトロニクスの製品ファミリーを例にとり、具体的に紹介しよう。
 
表1 ザインLVDS SerDesの製品ファミリー (以下は一部抜粋)

図5は、LVDS SerDesの基本構成である。シリアライザへの入力信号は、データが7ビット×4本=28ビットである。これらのデータをシリアルのLVDS信号に変換して、デシリアライザに送る。加えて、クロック信号も別に送る。デシリアライザでは、送られてきたクロック信号を使ってタイミングを調整して、データを受信し、7ビット×4本のLVDS信号をTTL/CMOSデータに変換して出力する仕組みである。
 
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ザインエレクトロニクスが提供しているLVDS SerDesの特徴としては、以下の6つの点が挙げられる。

1つは、3.3V動作の一般的な製品のほかに、シリアライザにおけるLVDS規格を順守しつつ1.8Vの低電圧動作品も用意していることだ。通常、電源電圧を低下させると、LVDS規格で定められている1.2Vの出力コモンモード電圧(Voc)を守ることが厳しくなる。競合他社の低電圧品では、Vocが1.2Vよりも低くなってしまうものが少ない。しかし、ザインエレクトロニクスの「THC63LVDM87」や「THC63LVD827」は、1.8V動作の低電圧化を実現すると同時に、出力コモンモード電圧(Voc)を受信側のデシリアライザにとって最適な1.2Vを維持している。

2つめは、シングルリンクとデュアルリンクに対応した各種製品をラインナップしていることである。例えば、RGB各10ビットの画像信号伝送に対応したシングルリンクのシリアライザ「THC63LVD103D」とデシリアライザ「THC63LVD104C」のデュアルリンク版がシリアライザ「THC63LVD1023B」とデシリアライザ「THC63LVD1024」となる。デュアル品を使えば、データ伝送帯域を簡単に広げられる。例えば、シングル品では1080Iまでしか対応できないが、デュアル品を使えば1080Pへの対応が可能になる。さらに、RGB各8ビットのデュアルリンク品も用意しており、具体的な製品にはシリアライザ「THC63LVD823B」やデシリアライザ「THC63LVD824A」などがある。これらの製品は、基板間や筐体内のバス幅が広いデータ通信用途に適用可能だ。

3つめは、データを取得するタイミングを立ち上がりエッジと立ち下がりエッジのいずれかを選択できる製品を用意していることだ。液晶パネルなどの用途は、立ち下がりエッジを利用するが、一般的なデータ伝送に使うシリアル・インターフェースでは、立ち上がりエッジを使う。製品型番にLVDRの「R」が付く製品は立ち上がりエッジに、LVDFの「F」が付く製品は立ち下がりエッジに対応する。「LVDM」や「LVD」が付く製品は、両方に対応しており、ピン設定でいずれか一方を選択できる。

4つめは、リピーターICも製品化していることだ。型番は「THC63LVD1027」である。リピーターICを使えば、LVDS SerDesから出力された信号を一度受信して、ケーブルなどで発生したスキューやジッタを吸収し、電圧軸と時間軸とも理想的な状態に整形したLVDS信号を再び送信できるようになる(図6)。
 
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こうすることで、データの伝送距離(ケーブル長)を大幅に伸ばすことが可能だ。伝送路の中間に置くことで伝送距離(ケーブル長)は2倍に延ばせる。さらに、今まで困難だった1チャネルの画像信号入力を2チャネルに分配して出力するLVDS SerDesの信号分配も可能になる(図7)。
 
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5つめは、対応するクロック周波数範囲が8M~160MHzと広いことだ。例えば、「THC63LVD103D」などが広いクロック周波数範囲に対応する。周波数範囲が広ければ、さまざまなパラレル・バスに適用できるようになる。その分だけ設計柔軟性が高まるわけだ。

6つめは、LVDSの出力をさらに低振幅とした製品を用意していることである。前述のように、LVDS SerDesは一般に、3.5mAの電流源と100Ωの終端抵抗を使う。このため振幅は350mVになる。LVDS低振幅モードのRS(Reduce Swing)を使用すると振幅を200mVに低減できる。このためEMIを抑え低消費電力化も可能になるわけだ。

このほか、カメラモジュールなどの小型電子機器への搭載に向けて実装面積が5mm×5mmと小さい49ピンVFBGA封止品を用意していることや、車載機器などに向けて動作温度範囲が−40~+105℃と広い製品を用意していることも特徴に挙げられるだろう。

以上のようにザインエレクトロニクスは、数多くのLVDS SerDes製品を用意することで、さまざまなアプリケーションへの対応を可能にしている。しかし、LVDS SerDesだけで、すべてのシリアル・インターフェースをカバーできるわけではない。4Kの倍速やディープカラー、8Kといった高解像度信号、また高速で伝送距離が必要なアプリケーションに対応することは困難だ。そこでザインエレクトロニクスでは、より高速なシリアル・インターフェース技術である「V-by-OneⓇ HS」を用意している。3回目となる次回は、V-by-OneⓇ HSの基本原理や、その製品ラインナップなどを解説しよう。