THine Value テレビの高リフレッシュレート化や低消費電力化が可能に!内部インターフェース向け「V-by-One HS plus」規格が登場

2023.07.11
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 テレビの内部にあるビデオ・プロセッサ(映像処理SoC)とタイミング・コントローラ(TCON)を結ぶ映像インターフェース。ザインエレクトロニクスは、この映像インターフェースに向けたトランスミッタ/レシーバICやその技術標準としての規格書(Standard)を提供しており、テレビ業界で広く採用していただいている。この規格/技術名を「V-by-One HS」と呼ぶ。
 V-by-One HSが業界で広く普及しはじめたのは2011年頃。それから約12年もの長い間、使い続けられている。このためテレビ業界からは、V-by-One HSを「映像インターフェースのデファクト・スタンダード(事実上の標準規格)」と呼ぶ声が多い。
 最近になって、この映像インターフェースを取り巻くトレンドに変化が生じている。そのトレンドは2つある。1つはテレビ映像のさらなる高品質化である。具体的には、高解像度化と高リフレッシュレート化だ。高解像度は、4K(約4000×約2000画素)から8K(約8000×約4000画素)への移行。高リフレッシュレート化は、現在主流の120Hzから165Hzや240Hzに高めようとする動きである。高リフレッシュレート化に向かう動きの背景の1つは、eスポーツに代表されるリアルタイム性が追求されるゲームのプレイに効果を発揮する「ゲーミング・モード」の搭載検討である。高リフレッシュレートに対応したPC用モニタ「ゲーミング・モニタ」がすでに市場に存在するが、テレビでもそのリアルタイム性で勝負できるようにする目論見だ。近年、コモディティ化の著しいテレビの高付加価値化という観点からも注目される機能である。
 もう1つのトレンドはさらなる低消費電力化である。欧州と米国を中心に、民生機器に向けた環境規制が厳しくなる方向にあり、電子機器の消費電力の削減が強く求められている。もちろんテレビも例外ではない。このためテレビ・メーカーは、テレビを構成する各要素の消費電力削減に取り組んでいる。そして、映像インターフェースに対しても漏れなく低消費電力化が期待されている。テレビ・メーカーは、一方で高性能化に取り組みつつ、その一方で低消費電力化に迫られる悩ましい状況が続いている。

伝送速度は最大8Gビット/秒

 映像の高品質化と低消費電力化。テレビ内部の映像インターフェースとして広く採用されているV-by-One HS技術を提供するザインエレクトロニクスとしては、この2つのトレンドに対処することをひとつの責務と捉えている。
これを受けてザインエレクトロニクスでは、V-by-One HSの後継版として新しいインターフェース規格「V-by-One HS plus」を策定した(図1)。
 
図1  V-by-One HS plus規格のロゴマーク

 2023年6月1日から、ライセンス供与を始めている。従来のV-by-One HSは今後も利用できるものの、V-by-One HS規格の新規ライセンス供与は終了し、V-by-One HS plus規格に一本化する。V-by-One HS plus規格では、V-by-One HSの最終バージョンであるVer. 1.52と完全互換性がある「HSモード」とV-by-One HS plusで新たに加わった「HS plusモード」の2つを定義しており、ユーザーはこのいずれか、もしくは両方のモードを実装して使用する(図2)。
 
図2 V-by-One HS plus Standardにおける各モードの定義

 HS plusモードの最大の特徴は、最大データ伝送速度(帯域幅)を8Gビット/秒に高めた点にある。従来のV-by-One HSは4Gビット/秒だったため、HS plusモードでは2倍に高めた計算だ。伝送信号のクロック周波数を2倍に高めることで高速化を実現している。
これによって、テレビ・メーカーが求める映像の高品質化と低消費電力化の両方に対応できるようになる。具体的な事例を、解像度が4Kでリフレッシュレートが120Hzのテレビを基準に説明する。映像の高品質化を目的に、4K解像度で120HzのテレビにHS plusモードを適用すれば、ビデオ・プロセッサとTCONを接続する信号ラインのレーン数はまったく同じままで、8K解像度で60Hzのテレビや4K解像度で240Hzのテレビへアップグレードできる。
 一方で、低消費電力化を目的に、4K解像度で120HzのテレビにHS plusモードを適用すれば、解像度とリフレッシュレートはそのままでビデオ・プロセッサとTCONを接続するレーン数を半分に減らせる。レーン数が減ることで、特にトランスミッタ側のビデオ・プロセッサの消費電力を減らせる可能性が高い(図3、4)。このようにHS plusモードを活用することで、映像の高品質化にも、低消費電力化にも対応できる可能性が広がる。
 
図3 レーン数を半分に削減
 
図4 V-by-One HS plus適用時の各要素の変動

システム・コストの観点でも有利なV-by-One HS plus

 各社にとって、映像の高品質化と低消費電力化への対応は大きな懸案事項だが、それと同じぐらいコスト低減も重要な課題である。そこで、V-by-One HS plusに関わるコスト要因について、映像インターフェースを構成に関連する部材費用と、V-by-One HS plus規格のライセンス費用の2つの観点から確認していく。
 まずは映像インターフェースの関連部材費用である。HS plusモードでは、最大データ伝送速度を従来規格の2倍に当たる8Gビット/秒に高めたものの、基本的な信号伝送方式はHS モードからの変化点が小さい(図5)。
 
図5 V-by-One HS plus規格とV-by-One HS規格の主要仕様比較

 例えば、変調方式や符号化方式はまったく同じ。これはテレビ・メーカーに加えて、ビデオ・プロセッサやTCONを開発するLSIメーカーがV-by-One HS世代で開発した設計資産や製造環境の多くをV-by-One HS plusでも流用できることを意味する。新しいインターフェースへの技術的な移行コストや開発初期コストの低減につながる。コスト要因として影響度合いの大きいコネクタやケーブルについても、従来のV-by-One HSと同水準のものを利用できる。V-by-One HS plusで新たに定義された「リファレンス・イコライザ(Reference Equalizer)」と、接続テスト仕様「テスト・パターン(Test Pattern)」、信号伝送路の特性を規定した「チャネル仕様(Channel Specification)」が、V-by-One HS plusで8Gビット/秒に高めた高速伝送の確立を支える技術要素である。
 さらに部材費用として見逃せないのがインターフェース規格に準拠した回路を内蔵するビデオ・プロセッサやTCONのコストである。高速化に伴って伝送路が減少することは、トランスミッタ側(ビデオ・プロセッサ)とレシーバ側(TCON)のLSIの入出力端子数やパッケージ寸法、パッケージ内部のダイ・サイズの減少に寄与し、ひいてはLSI全体のコスト削減につながる(LSIコストの各減少要因については図4参照)。

V-by-One HS plusのライセンス種別

 次に、V-by-One HS plus規格のライセンス費用について説明する。今回の新規格では、各ライセンス種別を図6のとおりに定めている。LSIやIPコアを設計するユーザー(LSIメーカーやIPコア・ベンダー)や、IPコアを利用してFPGAを設計するユーザーに対しては有償ライセンス供与を前提としている。
 
図6 V-by-One Hs plus規格のライセンス種別

 従来からの変化点としては、LSIやIPコア、FPGAを設計せず、規格書(Standard)のみの取得(規格書閲覧権のライセンス)を希望するユーザーに対しても「Standard User」として有償のライセンス取得を要件としたことだ。なお、ザインエレクトロニクスが販売するV-by-One HS/HS plus準拠ICや、ザインエレクトロニクスからライセンスを供与されたライセンシーが提供するV-by-One HS/HS plus準拠ICを使用する場合は、従来どおりライセンス費用は発生しない。
 従来のV-by-One HS規格からのライセンス種別の変化に伴って、V-by-One HS plusユーザーが負担する直接的なライセンス費用と間接的なライセンス費用は相対的に大きくなる可能性がある。ただしザインエレクトロニクスは、前述した各種部材のコスト減少要素、商品の高付加価値化につながる要素を踏まえると、V-by-One HS plusが各ライセンシーの成功に資するものと考えている。

さらなる高速化と低消費電力化が視野に

 策定したばかりのV-by-One HS plus規格だが、すでにザインエレクトロニクスでは仕様拡張の青写真を描いている。現時点で、検討している仕様拡張は2つある。
 1つは、さらなる高速化である。現在の最大データ伝送速度は8Gビット/秒だが、これをもう一歩速めて9Gビット/秒まで高める検討を進めている。一般に8Gビット/秒と9Gビット/秒の差は小さく見えるかもしれないが、現段階ではこの1Gビット/秒の差における技術的な障壁は小さくない。ただし、技術的な実現の目処が立てば、9Gビット/秒にすることで、レーン数を抑えることのできる用途が拡がる。
 もう1 つは、低消費電力モードの導入である。テレビのリフレッシュレートは常時、最大値が求められるわけではない。例えば、映像配信サービスのサムネイルを表示する場合のように更新頻度が低い映像が対象であれば、リフレッシュレートを低くしてもその影響は小さい。その場合は、使用する信号伝送路のレーン数を減らし、動作するトランスミッタ回路の個数を削減できる。つまり同モードを適用する期間中の消費電力を削減できる。今後も引き続き業界団体からの環境規制は厳しくなることが想定されるため、同対応の一助となるモードとして検討を続けている。

導入検討や検証用途の評価ボードを市場投入へ

 このほかザインエレクトロニクスでは、V-by-One HS plusの信号伝送特性を検証する用途などに向けた評価ボードや評価チップ(TEGチップ)をリリースする予定である。まずは2023年第4四半期に、V-by-One HS plus規格に準拠したトランスミッタ回路とレシーバ回路を載せたFPGAを使った8Gビット/秒対応の評価ボード「THEVAHSP」を投入する予定だ。その後、2024年第2四半期には、V-by-One HS plus規格に準拠した評価チップ(TEGチップ)を採用した8Gビット/秒対応の評価ボード「THEVA423/424-V1」もリリースする。
 さらに、最大データ伝送速度を9Gビット/秒に高めたうえで、トランスミッタIC(シリアライザIC)「THCV425」と、レシーバIC(デシリアライザIC)「THCV426」を製品化することも視野に入れている。製品化時期はV-by-One HS plus規格の仕様拡張の時期に依存するものの、現時点では2024年第4四半期を予定している。

以上