THine Value ラズパイ向けカメラ延長キットがもたらす4つのメリット、様々な産業用IoTシステムの実用化のトビラを開ける

2021.06.21
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 ザインエレクトロニクスは2021年3月に、シングルボード・コンピューター「Raspberry Pi(ラズベリーパイ、ラズパイ)」とカメラ・モジュールとの接続距離を大幅に延ばすことができる長距離伝送キット「Cable Extension Kit for Raspberry Pi Camera(製品型番はTHSER101)」を発売した(図1)。これまでRaspberry Pi単体では、カメラ・モジュールと接続するケーブルの長さはせいぜい20cm~30cmしか延ばせなかった。しかし、長距離伝送キットを使えば、その距離を一気に拡張できる。標準的なイーサネット・ケーブル「CAT5e」を使った場合は最長15mに、シールドを施した品質の高いイーサネット・ケーブルを使えば最長20mに延ばすことが可能だ。
 
図1 ラズパイとカメラの接続距離を最長20mに延ばせる

 この長距離伝送キットに対する業界関係者やユーザーの評価は高い。例えば、Raspberry Pi Foundation(ラズベリーパイ財団)が発行する公式マガジン「MagPi」に紹介記事が掲載され、好意的な評価を受けた。なぜ、そうした評価を受けることができたのか。それは恐らく、長距離伝送キットがもたらすメリットが大きいからだろう。

 前回のコラム記事では、最適なアプリケーションの代表例として、ぶどうや桃、梨など比較的背の高い棚を使って作物を育てる農場向けIoT(Internet of Things)システムを紹介した。棚の高さは、農場によって異なるが2m程度なのが一般的。このため、地上に置いたRaspberry Piと棚の上に設置したカメラモジュールの間をケーブルで接続できない。そこで発売した長距離伝送キットの出番となる。これを使えば、比較的簡単に問題を解決できる。

 もちろん、長距離伝送キットのメリットを享受できるアプリケーションは農場向けIoTシステムだけではない。今回のコラム記事では、「安全性」「軽量化」「アクセス容易性」「安定性」という4つのメリットをキーワードにして、長距離伝送キットの最適なアプリケーションを4つ紹介しよう。

Raspberry Pi、活用例が急増の3つの理由

 まずは、長距離伝送キットの具体的なソリューションを紹介する前に、産業分野においてRaspberry Piの活用事例が急速に増えている理由をおさらいとしておこう。具体的には、3つの理由があると考えられる。

 1つ目は、コストが低いことだ。産業向けIoTシステムでは、各種センサーでデータを集めて、そのデータを生産効率の改善や人件費の削減などに活かす。そのためにはセンサーで取得したデータを処理して、ホストに送る「電子機器」が必要だ。しかし、この電子機器をゼロから開発していたのでは、比較的多くの時間と大きなコストがかる。できる限り手軽に開発したい。そこで数千円で手に入るRaspberry Piを利用するケースが急増している。

 2つ目は、ノウハウの入手性が高いことである。Raspberry Piではユーザー・フォーラムが整備されており、ここに様々な情報が集まっている。使用時に何らかのトラブルに遭遇しても、解決の糸口となる情報を探し出せる可能性が高い。場合によっては、ユーザー・フォーラムのサイトで質問を投げ掛けると、世界中のユーザーから回答をもらえる。

 3つ目は、エコシステムが整備されていることだ。例えば、カメラ・モジュールや無線通信モジュール、ディスプレイ、microSDカード・リーダー、温度/湿度/超音波/回転角センサーなどの周辺機器が用意されており、Raspberry Piに簡単に接続して使える。さらにOSについても、公式OS「Raspberry Pi OS」のほか、「NOOBS」「Ubuntu(MATE)」「Windows 10 IOT Core」などが用意されている。どのようなアプリケーションに活用するにせよ、それを実現する際に必要なハードウエアやソフトウエアが揃っているわけだ。

 なお、今回発売した長距離伝送キットに接続できるカメラ・モジュールは、「Raspberry Pi High Quality Camera(HQカメラ)」と「Raspberry Pi Camera Module V2(V2カメラ)」の2種類である。前者は、画素数が1230万画素で、最大フレーム速度が50フレーム/秒。一方の後者は画素数が800万画素で、最大フレーム速度は30フレーム/秒に対応する。

メリット①:安全性

 それでは、発売した長距離伝送キット「Cable Extension Kit for Raspberry Pi Camera」の最適なアプリケーションを4つのメリットをキーワードに紹介していこう。

 1番目のキーワードは「安全性」だ(図2)。一般にカメラ・モジュールは、用途が決まれば最適な取り付け位置は自動的に決定される。例えば、監視カメラであれば、監視の対象となる空間(部屋)全体を撮影する必要があるため、天井や天井近くの側壁といった高い場所に取り付ける。このときRaspberry Pi単体であれば、カメラ・モジュールとの距離を20cm~30cmしか離せないため、Raspberry Piもカメラ・モジュールと一緒に高い場所に取り付けなければならない。
 
図2 安全性:監視カメラ

 このとき問題になるのは安全性だ。不具合や故障などでメンテナンスが必要になった場合、担当者は脚立やはしごに登って高い場所で作業しなければならない。もちろん、一般住宅などであれば、高さはそれほど問題にならないだろう。しかし、工場やショッピングセンターなどの天井はかなり高い。そうした高い場所での作業は極めて危険だ。何らかのアクシデントで、脚立やはしごから落下すれば、大怪我を負う危険性が高い。

 この問題は、今回発売した長距離伝送キットを使えば解決できる。Raspberry Piとカメラ・モジュールとの距離を最長20m離せるため、Raspberry Piを地上に置いたテーブルやデスクなどの上に設置できるようになるからだ。こうすればメンテンナンス作業時の危険性を一切排除できる。危険だった作業が安全な作業になるわけだ。
 

メリット②:軽量化

 2番目のキーワードは「軽量化」である(図3)。前述の通り、カメラ・モジュールの最適な取り付け位置は、用途が決まれば自動的に決まってしまう。ロボットアームは、モノをつかむ手先を撮影しなければならない。つまり、カメラ・モジュールはロボットアームの先端に近い位置に取り付ける必要がある。
 
図3 軽量化:ロボットアーム

 ここで問題になるのは、Raspberry Piの取り付け場所だ。Raspberry Piとカメラ・モジュールを接続するケーブルの長さは20cm~30cmしかないため、Raspberry Piもロボットアームに取り付けざるを得なくなる。ところがRaspberry Piは比較的重い。V2カメラの重さはわずか約4g(外形寸法は約2.5cm×約2.4cm×約0.9cm)だが、「Raspberry Pi 4 Model B」はその12倍の約48g(同約9cm×約5.5cm×約1.8cm)もある。このためロボットアームの駆動制御に悪影響を与えるのは必至だ。最悪の場合、モノを正確につかんで、所定の位置に移動させるという作業ができなくなってしまうかもしれない。

 この問題も、今回の長距離伝送キットを使えば解決可能だ。ケーブル長は最大20m確保できるため、Raspberry Piをロボットアーム以外の場所に取り付けられるようになるからだ。カメラ・モジュールだけなら約4gと非常に軽い。このためロボットアームの動作に悪影響を与えることはない。

メリット③:アクセス容易性

 3番目のキーワードは「アクセス容易性」である(図4)。このキーワードから導き出される最適なアプリケーションは、前回のコラム記事で紹介した農場向けIoTと同じである。しかし今回は、少し違う切り口で紹介したい。
 
図4 アクセス容易性:果樹園

 一般に果樹園などを対象にした産業用IoTシステムでは、カメラ・モジュールを数m間隔で設置する。つまり、カメラ・モジュールの使用台数を非常に多く、様々な場所にカメラを置かなければならない。Raspberry Pi単体では、カメラ・モジュールと接続するケーブル長は20cm~30cmしかないため、Raspberry Piはカメラ・モジュールのごく近くに設置せざるを得ない。従って、メンテナンスや映像データの収集を行う際は、カメラ・モジュールとRaspberry Piを設置した場所を1カ所ずつ巡回する必要性に迫られる。

 そもそも、IoTシステムの導入目的は人件費の削減である。それなのに、設置場所を1カ所ずつ回る作業が発生していては、人件費の削減がままならなくなる。これでは本末転倒だ。

 そこで発売した長距離伝送キットの出番となる。カメラ・モジュールとRaspberry Piを接続するケーブルの長さは最長20mに延ばせるため、Raspberry Piを1カ所にまとめて設置できる。不具合や故障などが発生した場合のメンテナンス作業は極めて容易になり、映像データの収集作業も楽になる。つまり期待通りに人件費を削減できるわけだ。

メリット④:安定性

 4番目のキーワードは「安定性」である(図5)。例えば、農薬散布や映画撮影、測量、荷物配送などに使われる大型のドローンには、2台のカメラが搭載されている。いわゆる「ステレオ・カメラ」である。大型ドローンの飛行安定性を考えれば、約4gと軽いカメラ・モジュールは、機体の比較的先端に、約48gと重いRaspberry Piは機体の中央部に置きたいところだ。重いモノは中央に置いた方がバランスを確保でき、飛行姿勢を制御しやすいからである。
 
図5 安定性:ドローン

 ところが、カメラ・モジュールとRaspberry Piを結ぶケーブル長は20cm~30cmしか延ばせない。もちろん、大型ドローンの端部から中央部までの距離は、製品によって異なるものの、20cm~30cmよりも短いケースが多いだろう。しかし実際のところ、ケーブルは筐体の中を這わせる必要がある。このため、20cm~30cmのケーブル長では足りず、Raspberry Piを機体の中央部に置けないという事態が実際に発生している。

 この問題も、長距離伝送キットを使えば簡単に解決できる。カメラ・モジュールとRaspberry Piを接続するケーブルの長さを最長20mまで延ばせるので、Raspberry Piは機体の中央部に設置できる。このため大型ドローンの飛行姿勢に悪影響を与えることなく、はカメラ・モジュールとRaspberry Piを搭載できるようになる。

コンセプト検証(PoC)に効果を発揮

 最後に、産業向けIoTなどの用途でRaspberry Piを活用するケースが急増している理由をもう1つに挙げよう。それは、Raspberry Piを使えば「コンセプト実証(PoC:Proof of Concept)」を手軽に実行できることである。

 そもそも電子機器/システムの開発初期段階は、人的リソースもコストも少ない。このため、半導体チップ(IC)やプリント基板を製造したり、金型を作成して筐体を作ったりすることは現実的ではない。このため、簡単なモックアップでPoCを実施するケースが少なくなく、これではなかなか検証精度を高められないのが実情だ。

 しかしRaspberry Piを使えば、少ない人的リソースとわずかなコストで実物にかなり近い試作機が作れる。これであればPoCの検証精度をかなり高められるだろう。この結果、試作機の性能や機能、使い勝手などをブラッシュアップできるようになり、量産品の成功確率を高められるようになるはずだ。

 ザインエレクトロニクスでは、今回発売した長距離伝送キット「Cable Extension Kit for Raspberry Pi Camera」のキーパーツであるV-by-One HS対応トランスミッタ/レシーバIC「THCV241A/ THCV242」の販売も手掛けている。従って、Raspberry Piとカメラ・モジュール、長距離伝送キットで構成した試作機を使ってPoCを実施し、良好な結果が得られれば、すぐに量産に移行することが可能である。

※「Raspberry Pi」はRaspberry Pi財団の登録商標です。