THine Value 電源モジュールの自己発熱が極めて高温に! 強制空冷やヒートシンク追加なしに熱を下げた方法とは

2022.01.06
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FA機器メーカーのM社は、主力製品をバージョンアップするプロジェクトをスタートさせた。ところが、これまで電源設計を担当していたベテラン・エンジニアが定年退職。後任として白羽の矢が立ったのは、中堅のハードウエア・エンジニアだった。

課題


ベテラン・エンジニアが定年退職

FA機器の中堅メーカーであるM社はこれまで、3年に一回の頻度で主力製品をバージョンアップしてきました。今回のバージョンアップは、約1年前にキックオフし、マーケティングや製品企画などに関する会議を数多く重ねて、やっと今月から設計作業に入ることになりました。いつものことですが、開発スケジュールはだいぶ遅れています。

中堅エンジニアのO氏は、ハードウエア設計者です。今回は、FPGAの設計を担当すると同時に、思いもしなかった仕事を任せられました。それは、FPGAに電力を供給する電源回路の設計です。実は、前世代品までは、ベテラン・エンジニアのAさんが担当していたのですが、そのAさんが1年半前に定年で退職してしまったのです。Aさんほどのスキルを持った後継者はいない。そこで、ハードウエア技術者としては一流であるO氏に任せることになったのです。

電源回路は、アナログ技術の塊です。スキルや経験が乏しいエンジニアがそう簡単にこなせる仕事ではありません。実際、O氏の周囲の人たちは、不安そうな面持ちで彼の仕事を眺めていました。しかし、O氏には勝算がありました。

 

業界トレンドは電源モジュール

O氏はいわば、エレクトロニクスの「オタク」です。新しいガジェットはほとんど購入していましたし、エレクトロニクスの新技術に対する感度も高い。エレクトロニクス技術のニュース・サイトは、国内だけでなく、海外も漏れなくチェックしていました。

そうした経験から、電源(DC-DCコンバータ)はディスクリート部品で構成する時代から、モジュールを採用する時代に変化している業界トレンドを知っていました。ましてや、FPGA駆動用の電源回路です。「ディスクリート部品で構成するのはもう古い。電源モジュールを採用するのが当たり前」O氏はそう考えていました。

電源モジュールとは、PWM制御ICやパワーMOSFET、インダクタ、コンデンサなどを1パッケージに収めたもの。電源回路の主要部は、すべてパッケージの内部にあります。従って、FA機器メーカー側で設計しなければならない点は、ほとんどありません。多少語弊がありますが、「購入して、基板に実装するだけ」で電源回路は完成するのです。

O氏が選択したのは、海外メーカーの電源モジュールです。採用したFPGAは、比較的新しいプロセス技術で製造したもので、かなり高性能でした。電源回路に対する要求は非常に厳しい。そこで電源モジュール市場の先駆けとなった海外メーカー製のものを採用しました。

FPGAの設計が一段落してから、電源電圧、許容電圧範囲、起動シーケンスなどの確認、そしてツールでの消費電力見積もりを行った上で電源回路の設計に着手しました。前述のように、設計が必要な箇所はほとんどありません。推奨の入出力コンデンサの確認、出力電圧設定抵抗の定数決め、推奨に沿った基板レイアウト設計などの作業をこなすだけで設計は完了しました。

 

自己発熱が極めて高温に

図1 モジュール表面温度
数週間後、試作ボードがO氏の手元に届きました。さまざまなテストを1つずつ進めていく。テストは順調に進みました。

ところが、テスト作業が中盤に差し掛かったころ、ふと電源モジュールの表面に触れてみたところ、とてつもなく熱くなっていることに気づいたのです。念のため、赤外線サーモグラフィで測定してみると、表面温度が110℃を超え、ディレーティングが必要になる温度を超えていました。(図1)

このままでは、高い周囲温度の動作条件において、FA機器の目標性能をクリアできません。順調に進んでいたと思われていたO氏の設計作業ですが、一転、暗礁に乗り上げてしまいました。急ぎ、放熱対策に取り組むことになったのです。

 

課題のポイント

① ベテランの電源回路エンジニアが定年退職
② 高性能なFPGAが求める電源仕様をクリアする
③ 電源モジュールを採用したが、自己発熱量が多く、表面温度が高すぎる