電源モジュールの自己発熱が極めて高温に! 強制空冷やヒートシンク追加なしに熱を下げた方法とは<解決編>

解決のポイント

・変換効率と放熱性能を重視した電源モジュールを採用
・高電力密度で外形寸法が小型のため基板改版は最小限で済む

放熱対策を模索

完全にO氏のミスでした。採用した電源モジュールは、非常に小型で低背パッケージではあるものの、変換効率はあまり高くありません。そのことは、電源モジュールの検討時に把握できていましたが、これほどまで温度が上昇するとは予測できなかったのです。予測できていれば、ヒートシンクを用意したり、基板上で大きな放熱面積を確保したりといった対策を事前に講じることができました。

しかし、設計作業はもう終盤に差し掛かっています。筺体サイズはすでに決まっているため基板上に体積が大きなヒートシンクを追加したり、強制空冷用のファンを配置させるなどはできない。つまり、これらとは異なる方法で放熱対策を打たなければならないのです。なかなか最適な対策法は頭に浮かんできませんでした。

とりあえずO氏は、思いついた放熱対策を次々と試してみますが、一向に課題を解決できません。あれこれしているうちに、問題発覚から1週間ちょっと経過しました。

 

ニュース・サイトのチェックが突破口に

O氏はいつものように、エレクトロニクス分野の新技術をチェックするために、帰宅途中の通勤電車の中でスマートフォンから国内のニュース・サイトを見ていると1つの記事が目に留まりました。それは、ザインエレクトロニクスの新しい電源モジュールに関するニュースです。一般に、FPGAなどに向けた電源モジュールは、高速な負荷過渡応答特性や低ノイズ性能を売り文句にする製品が多いのですが、このザインエレクトロニクスの新製品は変換効率と放熱性能を重視しているようです。しかも、最大出力電流は12Aと大きく、外形寸法は15.2mm×15.2mm×3.2mmと小さい。これならば、基板のパターン設計変更は必要になりますが、既存の基板面積上に搭載できそうです。

翌朝、会社に着くとすぐにザインエレクトロニクスに電話を掛けて、電源モジュールの新製品である「THPM4301A/ THPM4401A/ THPM4601A」の担当者を呼び出してもらい、O氏が抱えている課題を説明しました。すると担当者は、サンプル品を持参して、M社を訪問してくれることになりました。

 

カスタマイズ化されたインダクタが大きく貢献

図2 ケース状に加工したインダクタ
数日後、担当者がやってきました。担当者によると、今回の新製品は、ケース状に加工したインダクタを新規採用することで、変換効率を高めるとともに放熱特性を大幅に改善したとのこと。さらに、ケースの材料が磁性体であるため、EMIの削減効果も期待できそうです。

サンプル品を使って、実験したところ、電源モジュール表面はそれほど熱くなりません。赤外線サーモグラフィで測ってみると、局所高温(ホットスポット)は発生せず、モジュール全体が少しだけ熱くなっている様子が見えました。つまり、ケース状に加工されたインダクタがヒートシンクの代わりを果たし、高い放熱効果を発揮しているわけです。(図2)

これで決まりです。O氏は、ザインエレクトロニクスの新しい電源モジュールを採用し、再設計作業に取り掛かりました。基板の改変では若干手間取りましたが、開発スケジュールに遅れることなく設計作業を終えることができました。

これまではFPGAなどのハードウエア設計を得意としてきたO氏ですが、今回のトラブルで電源に関するスキルと経験を積み上げることができました。エンジニアとして一回り大きく成長できたと言えるでしょう。