THine Value エッジAIシステム向けカメラ伝送ソリューション、接続距離とコストに関する課題を解決

2026.07.30
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 過去を見ると、半導体市場をけん引するアプリケーションは、ほぼ20年ごとに入れ替わってきた。1980~1990年代はパソコンとインターネットがけん引し、2000~2010年代にはスマートフォン(携帯電話機)とクラウドコンピューティングが主役に躍り出た。現時点ではまだ、スマートフォンとクラウドコンピューティングの勢いが強いものの、もうそろそろ主役が交代すると見られている。次の主役は何なのか。業界の声を総合するとエッジデバイス、もしくはエッジAIシステムになる見込みだ。
 こうした状況の中、ザインエレクトロニクスは、エッジAIシステムに向けたカメラ伝送ソリューションを開発した(図1)。
 
Camera Interface Solution for Edge AI System
図1 エッジAIシステム向けカメラ伝送ソリューションを展示会に出展
 
 どのようなエッジAIシステムに向けたもので、採用すればどのようなメリットが得られるのか。その詳細について、以降で説明しよう。

カメラを使ったエッジAIシステムが普及へ

 ここで簡単にエッジデバイス、もしくはエッジAIシステムについて解説しておこう。エッジデバイスやエッジAIシステムは、センサやマイコン、GPU(Graphics Processing Unit)、NPU(Neural Processing Unit)などで構成する。センサで取得した情報をGPUやNPUでAI処理し、その結果を基にマイコンで判断を下す。
現在、一般的に使われているクラウドAIシステム(クラウドコンピューティング)との最大の違いは、センサで取得した情報をクラウド上にあるホストとのやり取りを大幅に削減できる点にある。それによって大きく3つのメリットが得られる。1つ目は、リアルタイム性を確保できること。2つ目は通信コストを削減できること。3つ目はプライバシやセキュリティを確保できることである。
このエッジデバイスやエッジAIシステムに使われるセンサは多種多様だ。温湿度センサの場合もあれば、人感センサ、圧力センサ、光センサ、CO2(二酸化炭素)センサなどの場合もあり、例を挙げれば枚挙に暇がない。その中でも、比較的多くの用途で使われるのがイメージセンサである。つまりカメラである(図2)。
 
Motivation for Implementing AI Cameras
図2 カメラを使うエッジAIシステム(AIカメラ)を導入する動機

カメラを使うエッジAIシステム(AIカメラ)では、撮影した映像をAIで処理して、さまざまな判断を下したり、情報を取得したりする。例えば、駐車場に向けたエッジAIシステムであれば、自動車のナンバープレートを読み取って出庫口のバーを開閉したり、運転手を撮影した映像から年齢や性別といったマーケティング情報を取得して蓄えたりすることが可能になる。

IPカメラとUVCカメラは高価

 ただしカメラを使うエッジAIシステムの場合は、対象となる用途によって「カメラとAI処理用ボードコンピュータの接続距離」と「カメラのコスト」という課題に遭遇する可能性が高い。どういうことなのか。路線バスの車内を監視するエッジAIシステムという具体例で説明しよう。
 このシステムの役割は、時々刻々と変化する乗車人数や、車内における危険な事象(乗客の転倒など)を検知することにある。このためバスの車内全体をカバーできるように、カメラを複数カ所に設置する必要がある。AI処理を実行するボードコンピュータを運転席の周辺に配置する場合、車内後方に設置したカメラとの接続距離は大型バスであれば10m程度、中型バスであれば8m程度になる。
 カメラの候補は3種類ある。すなわち「UVC(USB Video Class)カメラ」「IP(Internet Protocol)カメラ」「MIPI(Mobile Industry Processor Interface)」である(表1)。
 
表1 カメラの比較
Comparison of UVC, IP, and MIPI Cameras

 この中でIPカメラを使えば、カメラとボードコンピュータの距離が10m超であっても接続できる。実際には100m程度の距離を接続できる。ただし1台当たりの価格が比較的高い。機種によって幅があるものの、産業用途向けであれば10万円程度が多いようだ。このため、複数台のカメラで構成する場合は、かなり高額なシステムになってしまう。
UVCカメラは接続距離が最大5mであるため、バスの車内監視向けエッジAIシステムには適用が難しい。しかも価格は、産業用途向けであれば4万~8万円程度と比較的高い。一方でMIPIカメラの価格は3000~5000円と低い。複数台使用するシステムには最適だと言える。しかし接続可能な距離は20cm~30cmとかなり短い。このままではバスの車内監視向けエッジAIシステムに適用することは不可能だ。

安価なMIPIカメラの接続距離を延ばす

 価格だけを見れば、エッジAIシステムに最適なカメラは「MIPIカメラ」ということになるだろう。しかし如何せん、接続可能な距離が短すぎる。これを改善しなければ、エッジAIシステムへの適用は極めて難しいと言わざるを得ない。しかも、MIPI CSI-2(Camera Serial Interface 2)信号入力に対応していないボードコンピュータが多い。
そこでザインエレクトロニクスは、これらの問題の解決に向けた「エッジAIシステム向けカメラ伝送ソリューション」を開発した(図3)。
 
Use Cases for Camera Transmission Solutions for Edge AI Systems
図3 エッジAIシステム向けカメラ伝送ソリューションの使用例

 これを使えば、映像信号の伝送距離を大幅に延ばせる。このソリューションは3つの要素で構成する。1つ目は、シングルボードコンピュータである。具体的には、米Thundercomm Technology社の「RUBIK Pi3」を採用しており、これには米Qualcomm社のSoC(System on a Chip)「QCS6490」が搭載されている(図4)。
 
Raspberry Pi Camera-Compatible Board Computer
図4 ラズパイカメラ互換のボードコンピュータを採用

 このボードコンピュータの特徴は2つある。1つは、Raspberry Piカメラ(ラズパイカメラ)との互換性を確保している点。ラズパイカメラを接続するだけで、それを認識し、映像データを取り込める。もう1つは、QCS6490にNPUが集積されており、12TOPSのAI処理性能を備えていることである。このため、さまざまなAI処理を実行できる。最もかんたんな方法としては、Qualcomm社が用意するサイト「AI Hub(リンク:https://aihub.qualcomm.com)」に各種AIモデルが登録されており、それをダウンロードするだけでさまざまなAI処理が可能になる。もちろんカスタム開発されたAIモデルを実装することもできる。
 2つ目の要素はラズパイカメラ、3つ目はラズパイカメラ伝送延長キット「THSER102A」である。このキットは、送信ボードと受信ボードで構成されており、送信ボードはラズパイカメラと接続し、受信ボードはシングルボードコンピュータとつないで使う。なお、ラズパイカメラではなく、一般的なMIPIカメラを使うことを希望するユーザーは、ザインエレクトロニクスに相談してほしい。対応する送信ボードなどをカスタムで開発することも可能だ。

V-by-One HS技術で実現

 ラズパイカメラ伝送延長キットは、ザインエレクトロニクスが得意とする高速信号インターフェース技術「V-by-One HS」を採用する。まずラズパイカメラが出力するMIPI CSI-2信号を、送信ボードに載せたV-by-One HS対応トランスミッタIC「THCV241A-P」に入力する。するとTHCV241A-Pは、MIPI CSI-2信号を差動形式のV-by-One HS信号に変換する。これをEthernetケーブルで伝送し、受信ボードに搭載したV-by-One HS対応レシーバIC「THCV242A-P」で受けて、MIPI CSI-2信号に変換してからボードコンピュータに受け渡す。このためMIPI CSI-2信号入力に対応していないボードコンピュータが多いという課題も解決できる。
 使用するEthernetケーブルの種類とカメラの解像度によって、接続可能な距離は変わる。解像度が8M画素(約800万画素、3264×2448)の場合は、カテゴリ6AのEthernetケーブルを使うときに最大10m、カテゴリ7のときに最大15mの映像信号の伝送が可能である。前述の大型バスの車内監視向けエッジAIシステムであれば、カテゴリ6AのEthernetケーブルではぎりぎりだが、カテゴリ7のEthernetケーブルを使えば実現できる。さらに、解像度を落とせるのであれば、カテゴリ6AのEthernetケーブルで15m程度の接続も可能だ。

無人販売所などに向ける

 エッジAIシステムに向けたカメラ伝送ソリューションが狙うアプリケーションとして、ザインエレクトロニクスでは農作物をはじめとする無人販売所を挙げる。すでに実用化されている無人販売所向け課金システムは、カメラとロードセル(重量センサ)を組み合わせて、ユーザーが選択した商品を把握している。もちろん、このセンサの構成でも、実現可能だが、ロードセルを使うと商品の陳列位置が制限されてしまう。
 そこでザインエレクトロニクスでは、すべてカメラで構成する課金システムを提案する。開発したカメラ伝送ソリューションであれば、伝送可能な距離が長いため大型の無人販売所に対応できる上に、安価なMIPIカメラが使える。1つの陳列棚に複数台のカメラを配置し、クロスレビューで検出することも可能になる。
なおザインエレクトロニクスでは、エッジAIシステムに向けたカメラ伝送ソリューションのさらなる性能向上を計画している。AIモデルを複数同時に処理する必要があるアプリケーションの場合は、AI処理性能が12TOPSで足りないことが想定される。そこでAI処理能力が48TOPSと高いNPUを集積したQualcomm社のSoCを載せたたカスタムボードの開発についても、お客様のご要望に応じてご相談を承っている。( →カスタム開発ご相談フォームはこちら

以上