THine Value 産業機器向けカメラ・モジュールを徹底比較。UVCカメラ、IPカメラ、Wi-Fiカメラ、MIPIカメラの利害得失は?

2023.09.12
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 産業機器などに向けた組み込み用カメラ・モジュールの進化が著しい。解像度やフレーム・レートの向上に加えて、外形寸法の小型化や低コスト化、使い勝手の改善などが急ピッチに進んでいる。このため工場の製造ライン向け検査/測定装置や監視カメラはもちろんのこと、ロボットやドローン、医療機器、POS端末、現金自動預け払い機(ATM)、自動販売機などへの搭載が当たり前になりつつある(図1)。
 
図1 カメラ機能を搭載した産業機器の例

 こうした産業機器にカメラ・モジュールを搭載すれば、今までにはない新しい機能を追加することが可能になる。例えば、自動販売機にカメラ・モジュールを搭載すれば、撮影した利用客の映像から性別や年齢などのデータを取得し、それを使って販売する飲料のラインナップの最適化が可能になる。つまり、マーケティング・データの取得に活用できるわけだ。今後も、カメラ・モジュールを搭載する産業機器が増えることは間違いないだろう。

選択肢は大きく分けて4つ

 しかし産業機器にカメラ・モジュールを組み込むには、決して非常に高いとは言えないが、いくつかのハードルを乗り越えなければならない。産業機器メーカーのエンジニアが最初に遭遇するハードルは、カメラ・モジュールの選択だ。現時点では、カメラ・モジュールの選択肢は大きく分けて4つある。具体的には、「UVC(USB Video Class)カメラ」、「IP(Internet Protocol)カメラ」、「Wi-Fi(無線LAN)カメラ」、「MIPI(Mobile Industry Processor Interface)カメラ」の4つである(表1)。この4つのカメラ・モジュールについて、以下で簡単に説明しよう。
 
表1 産業機器向けカメラ・モジュールの選択肢
 

① UVCカメラ

 UVCカメラは、USBケーブルを介して接続して使用するカメラ・モジュールである。オンライン会議や動画配信などの用途で、パソコンにつないで使用するウェブカメラ(WEBカメラ)の多くは、このUVCカメラである。メリットは、使い勝手の高さにある。なぜならば、UVC(USB Video Class)規格に準拠しているため、パソコンのOSにドライバ・ソフトウェアがあらかじめ用意されているからだ。ユーザーはUVCカメラをただ接続するだけで、パソコン画面上に映像を表示できる。従って、産業機器に組み込む際もドライバ・ソフトウエアを開発する必要がない。その一方でデメリットもある。UVCカメラはそれ自体が最終製品であるため、産業機器などに組み込むカメラ・モジュールとしては外形寸法が大きく、コストが高いことである。

 

② IPカメラ

 IPカメラは、Ethernet(イーサネット)ケーブルを介して接続して使うカメラ・モジュールである。カメラ自体がIPアドレスを持っており、インターネットに接続するだけで使用できる。ネットワーク・カメラとも呼ばれる。主な用途は監視カメラなどだが、産業機器への組み込みにも使える。メリットは、UVCカメラと同様に使い勝手の高さにある。産業機器に組み込む際にも、ドライバ・ソフトウエアを開発する必要はない。さらに接続距離が100m程度と長いこともメリットの1つだ。離れた場所の監視などに使える。デメリットはUVCカメラと同様に、外形寸法が大きく、コストが高いこと。さらに、映像信号を圧縮して伝送するため、リアルタイム伝送ができず、数フレームの映像遅れが発生してしまうこともデメリットである。

 

③ Wi-Fiカメラ

 Wi-Fiカメラは、前述のIPカメラのWi-Fi(無線LAN)版という位置付けだ。従って、これを使えばカメラ・モジュールと映像を表示するモニターの間を無線化できる。これが最大のメリットだ。しかも接続距離は200m程度ととても長く、使い勝手も高い。デメリットは、IPカメラと同様にリアルタイム伝送ができないことが挙げられる。さらに、周囲の環境によっては接続が途切れてしまう危険性があり、接続の堅牢性は比較的低く、セキュリティに対する懸念がある。加えて、産業機器などに組み込むカメラ・モジュールとしては外形寸法が大きく、コストが高いこともデメリットとして挙げられるだろう。

 

④ MIPIカメラ

 MIPIカメラは、スマートフォンなどのモバイル機器内部でカメラとSoCの間を接続する伝送規格「MIPI CSI-2」を映像出力インターフェースに採用したカメラ・モジュールである。メリットは、そもそもモバイル機器向けであるため外形寸法が小さく、コストが低いこと。さらにリアルタイム伝送が可能で、接続の堅牢性が高いこともメリットに挙げられるだろう。一方でデメリットが2つある。1つは、接続距離が長くても30cmと短いこと。このためカメラ・モジュールと映像処理プロセッサの距離が遠い産業機器への適用は難しい。もう1つは、産業機器に組み込む際にドライバ・ソフトウェアを開発したり、レジスタ・コードを記述したりする必要があることだ。UVCカメラやIPカメラとは異なり、接続しただけでは映像を表示できない。
 ただし、接続距離に関するデメリットは、適切な対策を打てばある程度解消できる。具体的には、ザインエレクトロニクスの高速シリアル・インターフェース「V-by-One HS」を組み合わせればよい(表1中の「⑤MIPIカメラ+V-by-One HS」)。そうすれば接続距離を約15mまで延ばせるからだ(図2)。しかも、組み合わせたことで発生するデメリットはほとんどない。強いてデメリットを挙げれば、部品コストと開発コストが若干増えるぐらいだ。外形寸法が小さいことや接続の堅牢性が高いというメリットは変わらずに享受できる。
 
図2 MIPIカメラとV-by-One HSの組み合わせ

 V-by-One HSと組み合わせることで開発コストが増えるというデメリットは、ザインエレクトロニクスが提供する「MIPIカメラSerDesスターターキット」を使えばほぼ解消可能できる。このスターターキットでは、MIPI CSI-2信号の送受信に必要なソフトウェア一式を同梱しているほか、レジスタ・コードを自動的に生成するGUI(Graphic User Interface)ツールを提供している。

最適なカメラは用途によって異なる

 「あなたが開発している産業機器には、どのカメラ・モジュールが最適なのか」。実は、いかなる産業機器にもばっちり合う万能なカメラ・モジュールは存在しない。つまり、最適なカメラ・モジュールは産業機器によって異なるわけだ。従って、組み込む対象となる産業機器の特徴をよく吟味した上で、最適なカメラ・モジュールを選択する必要がある。以下で、5つの利用シーンを想定し、どのカメラ・モジュールが最適なのかを考えてみよう。

 

●思いついたアイデアを検証する場合はUVCカメラ

 産業機器にカメラ・モジュールを取り付けて、その映像をAI(人工知能)で画像認識すれば、新たな機能を付加できるはず。突然、そういったアイデアが思い浮かぶときがあるだろう。このアイデアを検証する場合、いわゆるPoC(Proof of Concept)ではとにかくスピードが重要である。この場合は、使い勝手が高いUVCカメラの採用が最適だろう。USBケーブルを介して接続するだけですぐに映像信号を取得でき、アイデアの検証にいち早く取り組むことができるからだ。

 

●実装スペースに限られる産業機器の場合はMIPIカメラ

 すでに完成された産業機器にカメラ・モジュールを後付けする場合は、もうすでに実装スペースがほとんどないケースが少なくない。例えば、自動販売機や製造ライン用検査/測定装置などに後付けするケースだ。こうしたケースでは外形寸法が大きいUVCカメラやIPカメラの採用は難しい。そこで、もともとはモバイル機器向けに開発されたMIPIカメラが最適解になる。MIPIカメラ・モジュールであれば、外形寸法が20mm×20mm程度の製品が入手できるため、限られたスペースでも実装できる。
 ただし、産業機器に後付けするケースでは、画像処理プロセッサとの距離が離れていることがある。MIPIカメラ・モジュールの伝送距離は最長30cmであるため距離が足りないことが想定される。その場合は、高速シリアル・インターフェースのV-by-One HSを組み合わせれば問題を解決できる。伝送距離を約15mまで延ばせるからである。

 

●映像信号の伝送距離が100mを超える場合はIPカメラ

映像を撮影する場所と、その映像信号を処理する場所がとても離れている産業機器が存在する。例えば、コンサート・ホールなどに設置する放送機器や、海中で撮影した映像を船上まで伝送する海中カメラ・システムなどである。求められる伝送距離は100mを超えることもある。従って、UVCカメラでも、MIPIカメラ+V-by-One HSでも対応が難しい。従って、この場合はIPカメラが最適解になるだろう。

 

●ケーブルの取り回しが難しい場合はWi-FiカメラもしくはMIPIカメラ+V-by-One HS

 産業機器にカメラ・モジュールを組み込む場合、ケーブルの取り回しが問題になるケースがある。例えば、機械的な構造が複雑な産業機器の内部にケーブルを設置するケースだ。特にケーブルが太いと設置が難しくなる。このケースでは、できる限り細いケーブルを使えれば取り回し作業は楽になる。そこで最適解となるのが、MIPIカメラ+V-by-One HSである。V-by-One HSはシリアル・インターフェースであるため、少ない本数のケーブルで映像信号を送ることができる。さらに、外形寸法やコストが許容範囲であれば、Wi-Fiカメラという選択肢もある。そもそもケーブルが不要なため、取り回し作業から解放される。

 

●別売り(オプション)カメラを接続可能にする場合はUVCカメラ

 POS端末などの業務用機器では、別売り(オプション)のカメラを端末本体に接続できるようにするケースがある。端末購入後に、QRコードの読み取りが必要になった場合に対応できるようにするためだ。このケースでは、エンド・ユーザーがカメラを購入して、端末本体に自分でつないで使用する。従って、極めて簡単に接続できることが最も重要になるため、最適解はUVCカメラになる。


以上