THine Value USBやHDMI, DisplayPortなどの伝送速度高速化による課題解決の一方で新たな課題が表面化

2020.05.15
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USBやHDMI, DisplayPortなどのペリフェラル・インターフェースの高速化が進んでいる。背景にあるのは、データの大容量化などだ。高速化すれば、伝送できるデータ量が大きく増える。メリットは極めて大きい。しかしその一方で、アプリケーションによっては高速化ゆえの課題に頭を悩ませることになる。それは伝送距離が短くなってしまうことだ。今回は、ペリフェラル・インターフェースの高速化の現状や、伝送距離の短縮によって引き起こされる問題、その対処方法などについて解説する。

高速化が進むペリフェラル・インターフェース

パソコン本体とその周辺装置を結ぶペリフェラル・インターフェース。その高速化が急ピッチで進んでいる(図1)。
 
ペリフェラル・インターフェースには、さまざまな種類がある。その中でも代表的な存在は「USB(Universal Serial Bus)」だろう。これは、HDDやSSD、USBメモリーなどのストレージ装置や、キーボード/マウス、プリンタなどとの接続に用いられるものだ。2008年に規格化された「USB 3.1 Gen1(元々の呼称はUSB 3.0)」では、データ伝送速度は5Gビット/秒だったが、2013年に規格化された「USB 3.1 Gen2」では10Gビット/秒に一気に引き上げられた。

さらに、パソコン本体やDVD/Blue-Rayプレーヤー・レコーダー、セットトップボックスなどの映像再生機器とディスプレイ、プロジェクターなどを結ぶHDMI(High Definition Multimedia Interface)でも高速化の流れは加速している。2013年に規格化されたHDMI 2.0ではデータ伝送速度が18Gビット/秒(6Gビット/秒×3レーン)だったが、そのわずか4年後の2017年には、HDMI 2.1として48 Gビット/秒(12Gビット/秒×4レーン)に高められている。

パソコン本体とディスプレイを結ぶインターフェースにはDisplayPortもある。これも2019年に策定された最新規格「DisplayPort 2.0」において、32.4Gビット/秒(8.1Gビット/秒×4レーン)に高められている。

データ量の増大が引き金に

ペリフェラル・インターフェースのこうした高速化の背景には、データの大容量化がある。例えば、デジタル一眼レフカメラの画素数は、売れ筋製品では3000万画素を、フラグシップ製品では5000万画素を超えている。画素数が増えれば、写真1枚の画像データ容量が増える。5000万画素の機種の場合、RAWデータであれば1枚で60Mバイト、JPEGで圧縮しても約17Mバイトを超えてしまう。

しかも、撮影した写真が1枚だけというケースは少ない。通常は、何枚もの写真を撮る。場合によっては、数百枚を撮影することもあるだろう。そうなれば、画像データの総容量は数10Gバイトにも達してしまうことになる。データ伝送速度が480Mビット/秒のUSB 2.0規格に準拠したインターフェースを使っていては、データ伝送だけに何時間も掛かってしまう。そこでUSB 3.2 Gen2の出番になるわけだ。

一方で、ディスプレイの高解像度化も見逃せない。パソコンでは、WQHD(2560×1140画素)やWQXGA(2560×1600画素)から、4K(3840×2160画素)への移行が進みつつある。業務用のディスプレイでは、4Kはもはや一般的であり、一部では8K(7680×4320画素)の採用が進んでいる。当然だが、解像度が高まれば、表示されるデータ量が増える。そのため高速なペリフェラル・インターフェースの採用が必要不可欠になる。そうしたアプリケーション側の要請から、HDMI 2.1 やDisplayPort 2.0が登場したわけだ。

高速化ゆえの悩み

ペリフェラル・インターフェースの高速化のメリットは大きい。ユーザーの利便性がグッと高まるからだ。ただし、アプリケーションによっては、高速化ゆえの課題に頭を悩ませることになる。その課題とは、伝送距離が短くなってしまうことだ。

例えば、USB 2.0では5mの伝送距離を確保できたが、USB 3.2 Gen1では2~3mしか伝送できない。しかも、伝送距離を何とか確保するために、高周波成分の減衰が穏やかな直径が太いケーブルを使わざるを得ない(図2)。
 
USB 3.2 Gen1では、直径が5mm(AWG30)と比較的太いケーブルを使用するのが一般的だ。ケーブルが太くなれば、屈曲性が失われ、取り回しなどに問題が生じる。

こうした伝送距離が短くなるという課題は、アプリケーションによっては致命的な問題になる。その最たる例がマシンビジョンだ。マシンビジョン用途では、工場の生産ラインなどにおいて、ホスト・パソコンとカメラを接続するためにペリフェラル・インターフェースが使われる。従来、標準的に使われていたのは「カメラリンク」である。伝送距離は8~10mと長かったため、ほとんどの場合でホスト・パソコンとカメラを問題なく接続できた。

ところが、USB 3.0規格を基に仕様が策定されたマシンビジョン向けインターフェース規格「USB3 Vision」は、高速化や低コスト化というメリットがある一方で、規格上の制約などからパッシブケーブルでの伝送距離は「カメラリンク」には及ばない。このため、場合によってはケーブルの長さが足りずに、ホスト・パソコンとカメラを接続できないケースが発生している。「マシンビジョンの用途では、少なくとも5mのケーブル長が必要という声が少なくない。従って、USB3 Visionを採用する際は、ケーブル長を延ばす工夫が求められる」(ザインエレクトロニクス)。

さらに、パソコンや家庭用ゲーム機などと接続して使うVR/AR端末(ゴーグル)でも、伝送距離が短いことは大きな問題になっている。ユーザーがVR/AR端末を装着して動くからだ。伝送品質を確保するためにケーブル長が短くなったり、重くなってしまうと、ユーザーの動きが限定されてしまう。このため「市場要求としては、長く・軽く・細く、を求められている」(同社)という。直径が細いケーブルを使いながら、5mを超える伝送距離を実現しなければならない。

伝送信号が大きく減衰してしまう

ペリフェラル・インターフェースの伝送距離が高速化によって短くなってしまう原因は、ケーブルの抵抗成分(インピーダンス)にある。インピーダンスには周波数特性が存在し、その値は周波数が高くなるほど大きくなる。高速なペリフェラル・インターフェースの伝送信号には、高い周波数成分(高周波成分)が多く含まれている。従って、伝送信号の高周波成分が大きく減衰し(図2)、伝送信号波形が劣化してしまうわけだ。このため、伝送できる距離が短くなってしまう。

こうした問題を解決する方法の1つにリドライバーICの活用がある。リドライバーICとは、ペリフェラル・インターフェースの途中に挿入することで伝送距離を延ばす役割を果たす(図3)。
 
鈍ってしまった伝送信号を受信し、減衰してしまった信号の周波数成分を増幅し、元通りの信号波形を再生して再び送り出す。つまり「リドライブ」するわけだ。これを使えば、高い伝送速度はそのままに伝送距離を大幅に延ばすことが可能になる。

すでに当社では、高速なペリフェラル・インターフェースの伝送距離を延ばす用途に向けたリドライバーICをラインナップしている。次節(第2節)では、リドライバーICの必要性や基本原理について解説する。