MIPI CSI-2の伝送距離問題を解決する方法! 新コンセプトを採用した小型カメラシステムの開発事例<解決編>

解決のポイント

「MIPI CSI-2」を「V-by-One HS」に信号変換

長距離伝送に課題

N氏が設定した性能をクリアするCMOSイメージ・センサには、外部インターフェースの選択肢が「MIPI CSI-2」しかありません。それもそのはず。今回選択したCMOSイメージ・センサは、センサメーカからリリースされた当初は、主にスマートフォンなどのモバイル機器に搭載されるカメラに向けたものでした。そのため、インターフェースもモバイル機器への適用を意識したMIPI CSI-2しかなかったわけです。確かにモバイル機器の内部を接続するには、30cmもあれば十分かもしれません。

しかし、今回のヘッド分離型カメラシステムには短すぎます。N氏は、無理は承知の上で、全長が1mの細いケーブルを接続してMIPI CSI-2の信号を伝送してみました。画像は何とか表示できているようですが、伝送信号波形をオシロスコープで観測してみると、セットアップ・タイムやホールド・タイムがまともに確保できていない様相です。やはり、MIPI CSI-2は、モバイル機器を出発点に策定されたインターフェース規格です。モバイル機器で優先される消費電力の低減に重きを置く仕様とした結果、今回のような長距離伝送には不向きな伝送仕様であると言わざるを得ません。さて、どうすればいいのか。N氏は、八方塞がりの状態に追い込まれてしまいました。
 

名刺の山

なかなか解決の糸口を見つけられないN氏。ある日、デスクの上に無造作に置かれた名刺の山に目が止まりました。それは、3カ月ほど前に参加した映像機器関連の展示会で、さまざまなブースで各社の担当者と交換した名刺を束ねたものでした。そのとき、ふと、ザインエレクトロニクスの担当者との会話を思い出しました。

そこで、名刺の山の中から目指す1枚を探し出し、そこに書かれている電話番号をスマートフォンに入力しました。幸い、その担当者とすぐに話すことができたのです。電話越しですが、N氏は現在抱えている課題を洗いざらい説明したところ、翌週早々にB社を訪問してもらえることになりました。
 

V-by-One HSに変換

ザインエレクトロニクスの説明員(担当者)は、提案資料を携えて、B社にやってきました。どうやら、すでに課題解決に向けた腹案を持っているようです。

早速、担当者は腹案の説明を始めました。まずは、MIPI CSI-2インターフェースを、「V-by-One HS」に変換します。V-by-One HSはザインエレクトロニクスによって開発された高速シリアル・インターフェースです。クロック・データ・リカバリ(CDR)という技術を適用してクロック専用線路を不要にしたことで、セットアップ・タイムやホールド・タイムの制約から解放されます。すなわち、MIPI CSI-2で問題となった伝送距離を延ばす際の妨げとなるボトルネックを排除できるわけです。
 

変換ICはカメラヘッドに内蔵します。そしてV-by-One HS信号をケーブルで伝送します。その後段において、コントロールユニットに内蔵した変換ICでV-by-One HSインターフェースをMIPI CSI-2インターフェースに戻し、FPGAに送信するという仕組みです。ザインエレクトロニクスのV-by-One HSレシーバICにはアダプティブ・イコライザが搭載されており、さらなる伝送距離の拡張も期待できるとのこと。この方法を使えば、伝送可能な距離を最大15m程度に延ばせます。

その後、カメラシステムの開発は順調に進み、ほぼスケジュール通りにアジア市場に投入することができるメドが立ちました。N氏の目算通り、従来にはない新しいコンセプトのカメラシステムが、アジア諸国で受け入れられるかどうかは、現時点ではまだ分かりません。しかし、新興のカメラシステム開発会社であるB社が、再成長に向けて大きな一歩を踏み出したことは確かでしょう。