THine Value ザインの総合力でサイネージに新価値を付加、スマートモジュールやSerDesチップなどで支援

2025.03.19
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 コンビニエンスストアのレジ前。この言葉から目に浮かぶのは、多くの来店客が会計のために列を成している光景だろう。これまでこの場所は、コンビニ店員と来店客の間で会計のやり取りをし、商品を受け渡すだけの空間だった。それ以外には活用方法がなく、有効に利用されていたとは言い難い。しかし、この常識を変えようとする取り組みが始まっている。それは、レジ前を「マーケティング空間」として活用しようとする取り組みだ。
具体的には、こう使う。まずは、レジの真上に店舗内に向けて大型ディスプレイ(デジタル・サイネージ)を設置し、その横、もしくは上にカメラ・モジュールを取り付ける(図1)。
 
図1 デジタル・サイネージでレジ前を「マーケティング空間」に変える

 そして、レジ前にやってきた来店客をカメラ・モジュールで撮影し、その映像を人工知能(AI)で処理することで、その来店客の属性情報、すなわち性別や年齢などの推定情報を取得する。そして、その属性情報を基に、最も効果が高いであろう広告をデジタル・サイネージに表示するわけだ。
例えば、50代の男性であればアルコール飲料(ビール)の広告を、小学生であれば軽食(ケーキ)の広告を表示するといった具合だ。こうした「エッジAI」技術を活用すれば、デジタル・サイネージに新しい価値を付加できるようになる。

キー・テクノロジをワンストップで提供

 「デジタル・サイネージの前の空間をあまり有効に活用できていない」という事例は決して少なくない。自動販売機(自販機)に取り付けたディスプレイの前、スーパーマーケットのレジ上に取り付けたディスプレイの前、デパートや家電量販店などで柱に取り付けたデジタル・サイネージの前など、例を挙げれば枚挙に暇がない。
 こうしたデジタル・サイネージの前もエッジAI技術を組み合わせれば、マーケティング情報を取得する空間に作り変えられる。もうすでに、エッジAI技術で価値を付加するために必要な技術はすべて揃っている。もちろん、ディスプレイとカメラ・モジュールは必須だ。これに以下の4つの「キー・テクノロジ」を組み合わせれば実現できる。
 1つ目は、演算能力が比較的高いSoC(System on a Chip)である。デジタル・サイネージ全体のシステム制御やAI推論などの処理を実行する。つまりエッジAIに必要な演算処理を担当することになる。
 2つ目は無線通信技術である。繁華街や屋内などでの使用が前提であればWi-Fi(無線LAN)に、郊外などで使うのであれば「4G LTE」や「5G」などの携帯電話通信(セルラー通信)に対応する必要がある。
 3つ目は、画像信号の長距離伝送である。冒頭で紹介したレジ上のデジタル・サイネージの例であれば、画面サイズがかなり大型であり、装置全体の外形寸法が大きくなる。このため、カメラ・モジュールとSoCの間、もしくはSoCとディスプレイの間の距離が非常に長くなる。しかし、一般にカメラ・モジュールやSoCの画像出力はMIPI(Mobile Industry Processor Interface)形式のケースが多い。MIPI信号の伝送可能な距離はわずか約30cmであるため、場合によっては伝送距離が足りない。このため、「V-by-One HS」などの差動伝送方式に対応したSerDesチップの採用が必要になる。
 4つ目は、画質調整技術である。このエッジAIでは、カメラ・モジュールを使って利用者を撮影した画像でAI学習やAI推論を実行する。このため、その「画質」が与える影響は小さくない。色調やホワイトバランス、フォーカス(焦点)、露出などのパラメータの設定が、AI推論時の精度に大きな影響を与える。

Fibocomのスマートモジュール

 実は、この4つのキー・テクノロジをすべて「ワンストップ」で提供できる企業は少ない。SoCを扱っている企業は、SerDesチップを持っていないケースが多い。仮に、SoCとSerDesチップを外部の半導体メーカから調達できても、ほとんどの企業は画質調整技術を持ち合わせていない。
 当社(ザインエレクトロニクス)は、この4つのキー・テクノロジすべてを提供できる数少ない企業だ(図2)。
 
図2 カメラからディスプレイまでトータルで映像伝送をサポート

 つまりデジタル・サイネージにエッジAIによる新しい価値の追加を目指すシステム・ベンダにとっては、当社は最適なパートナーと言えるだろう。
 それでは、当社は具体的にどのような製品や技術を提供できるのかについて説明しよう。4つのキー・テクノロジのうち、1つ目のSoCと2つ目の無線通信技術については、中国Fibocom Wireless社(以下、Fibocom)のスマートモジュールの形で提供できる。スマートモジュールとは、セルラー通信やWi-Fiなどの無線通信機能や、Bluetooth機能、プロセッサ、メモリ、ISP(Image Signal Processor)機能、タッチスクリーン・インタフェース(MIPI DSI出力)、カメラ・インタフェース(MIPI CSI-2)などを1つのパッケージに収めたものだ(図3)。
 
図3スマートモジュールとは?

 例えば、Fibocomのスマートモジュール「SC171」であれば、米QualcommのSoC「QCM6490」を搭載。このSoCには、CPUコア「Kryo 585」や、GPUコア「Adreno 643」、AIエンジン(NPU)などを集積しており、AI処理能力は12TOPS(Tera Operations Per Second)が得られる。エッジAIの実現には、十分なAI処理能力を備えていると言えるだろう。このほか4G LTEやWi-Fiといった無線通信機能を備えており、クラウド環境との連携動作も可能だ。
 なお、構築するエッジAIシステムによっては、QCM6490を搭載するスマートモジュール「SC171」ではAI処理能力が過剰というケースもあるだろう。当社では、Fibocomが提供するほかのスマートモジュールも取り扱っており、システム・ベンダが求めるAI処理能力やコストなどに合わせて、最適なスマートモジュールを提案できる。例えば、ミドルレンジに位置する、AI処理能力が1TOPSのスマートモジュール「SC208」(Qualcommの「SM6115」搭載)を選べばコスト競争力は上がる。その他、3.5~9TOPS対応のSC171-L(同、「QCS5430」)などを提供することも可能だ。

協業メーカのエッジ推論向けSDKを利用できる

 3つ目のキー・テクノロジである画像信号の長距離伝送については、当社のV-by-One HS対応チップが効果を発揮する。
 V-by-One HSでは、パラレル形式の画像信号をシリアル形式の画像信号に変換し、1ペアあたり最大4Gビット/秒の伝送速度を実現する差動信号伝送方式。この方式を使えば、伝送可能な距離を最大15mまで延ばせるこれだけの伝送距離を確保できれば、自販機などの用途でも問題なく対応できるだろう。
 具体的に、カメラ・モジュールとスマートモジュールの接続には、V-by-One HS対応トランスミッタIC「THCV241A」と、レシーバIC「THCV242A」が使える(図4)。
 
図4 SerDesを活用したデジタル・サイネージ向けエッジAIのシステム構成例

 一方で、スマートモジュールとディスプレイとの接続には、V-by-One HS対応トランスミッタIC「THCV353-Q」と、レシーバIC「THCV334-Q」が最適だ。
 4つ目の画質調整技術については、当社のISP(カメラ・プロセッサ)を介して培ったさまざまな経験を提供できる。実際当社は、カメラ・プロセッサに向けたカメラ開発キット(CDK:Camera Development Kit)を開発済みであり、カメラ・プロセッサのユーザ企業における画質向上のサポートに取り組んでいる。Fibocomのスマートモジュールに搭載されているISPに、当社のカメラ開発キットは適用できない。しかし、画質向上のサポートで培った経験は十分に生かせると考えている。
 なお、最後にソフトウエアについて言及したい。エッジAIシステムを構築するには、ソフトウエアも欠かせない。エッジAIシステムでは、撮影した画像を読み込んでAI学習を実行し、そこからAIモデルを生成する。そして、そのAIモデルをスマートモジュールのプロセッサにデプロイし、AI推論を実行するという一連の流れを実行しなければならない。これを主導するのはソフトウエアである。このエッジAIシステム構築に向けたソフトウエアについては、当社の協業メーカから提供を受けられる(図5)。
 
図5 協業パートナーが提供するソフトウエアの例

以上

アプリケーションの具体例

(1)デジタル・サイネージ
(2)ドライブ・レコーダ
(3)駐車場応用