THine Value 4K画質、PDAF対応のUVCカメラ・キット、カメラ搭載機器のPoCへの早期着手が可能に

2021.09.10
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 カメラ機能を搭載した電子機器は増加の一途をたどっている。いまやスマートフォンやタブレット端末、デジタルカメラだけでなく、産業機器や医療機器、自動車、セキュリティ機器、教育機器、ドローンなどにもカメラ機能が載っている。カメラ機能の搭載は当たり前になったといって過言ではない。今後もこの傾向は続くはずだ。それどころか、今後カメラ機能を搭載した電子機器は、加速度を付けて増えていくだろう。
 「カメラだらけの世界」は間もなく現実のものとなる。しかし、一抹の不安があるのも事実だ。それは、カメラ機能を搭載した電子機器を開発する作業の難易度が高いことから生じる不安である。CMOSイメージセンサーを搭載したカメラモジュールからは、MIPIインターフェースを経由して映像/画像信号が出力される。しかし、この信号のままではディスプレイに表示できない。様々な信号処理が必要になる。この信号処理に関する開発作業がかなり難しい。
 もちろん、経験が豊富な熟練のエンジニアであれば難なく対応できるだろう。しかし、そうしたエンジニアがすべての電子機器メーカーに在籍しているわけではない。もし、熟練のエンジニアがいなければ、せっかく良い製品企画を立案できたとしても、それを商品として世の中に送り出せない。これでは、「カメラだらけの世界」の到来がかなり遅れてしまうかもしれない。

箱を開けたらすぐに使える

 実際のところ、海外の産業用電子機器メーカーを中心に「すぐに映像や画像を表示できるカメラ・システムが欲しいという声が挙がっている」(営業部 プロダクトマネージャの桑山克己)という。これまでは、そうしたカメラ・システムを入手できなかったため、最終製品であるウェブカメラを一般市場で購入し、設計中の電子機器と組み合わせてPoC(Proof of Concept)に取り組むメーカーが少なくなかった。しかし、他社製品を自社製品に組み込んで販売するわけにはいかない。加えて、ウェブカメラはそもそも最終製品であるため、コストが非常に高いという問題があった。
 そこでザインエレクトロニクスはこうした問題を解決するため、カメラ機能を搭載した電子機器の開発に向けたカメラ・キット「THSCU101」を発売した(図1)。
 
図1 発売したUVCカメラ・キット

 このキットは、CMOSイメージセンサーなどを搭載したカメラボードと、三脚への固定用ネジ穴を設けたアクリル製保護カバー、USBケーブルから構成されている。カメラボードは、USBインターフェースを介して映像信号や制御信号を伝送する方式を規定した「UVC(USB Video Class)」仕様に準拠する。このため、専用のドライバー・ソフトウエアを用意しなくてもパソコンに直接接続して映像を表示できる。いわゆる「UVCカメラ」である。従って、カメラ・キットを購入して箱を開ければ、すぐにカメラ機能を付加できる。時間を掛けずにPoCに着手できるようになる。
 カメラボードの形状はほぼ正方形であり、サイズは35mm×36mm×1.2mmと小さい。このため多くの場合、設計の対象となる電子機器にそのまま組み込める。しかし、電子機器によっては、細長い形状でなければ組み込めないケースもある。「そうしたケースでも、当社にご相談いただければ様々なカスタマイズが可能である」(桑山)。
 主なアプリケーションとしては、倉庫や工場、スーパーマーケットなどで使われる商品管理用定点カメラや、バーコードの読み取りに向けたハンディターミナル、パスポートや運転免許証などのID認証用カメラ、人流や動線のモニタリング用カメラ、産業用AR(拡張現実)カメラ、教育用途に向けた書画カメラなどを想定している。

4K、PDAF対応は業界初

 CMOSイメージセンサーには、ソニーの「IMX258」を採用した。画素数は約1300万(4224×3192)画素で、最大フレーム速度は30フレーム/秒(3840×2160画素出力時)に対応する(表1)。いわゆる4K解像度の映像/画像を撮影できる。
 
表1 対応する画素数とフレーム速度

 オートフォーカス機能は、一般的なコントラスト方式に加えて、位相差検出方式(PDAF:Phase Detection Auto Focus)にも対応した。PDAFを使えば、コントラスト方式に比べて極めて高いスピードで焦点を合わせられる。パスポートや運転免許証といったID情報やバーコードなど、短時間での読み取りが求められる用途にも適用可能だ。4K解像度の映像/画像を撮影でき、PDAFに対応したカメラ開発キットの製品化は業界初である。
 カメラボードには、CMOSイメージセンサーやレンズを収めたカメラモジュールのほか、ザインエレクトロニクスの画像処理プロセッサー(ISP)「THP7312」や、米Cypress Semiconductor (独Infineon Technologies)のUSB3.0対応コントローラーIC「CX3」、フラッシュメモリーなどを搭載した(図2)。電源は、USBインターフェース経由で供給する。USBケーブルの長さは1m。USBコネクターの形状はカメラボード側がmicro Bで、パソコン側がType-Aである。
 
図2 カメラボード

個体差を吸収する仕組みを導入

 発売したカメラ・キットで撮影できる映像/画像の画質は、デフォルトとして「平均点」に設定してある。つまり、電子機器メーカーの多くが満足でき、そのままアプリケーションに適用できる画質であるわけだ。
 しかし電子機器メーカーによっては、「もっと派手に」「より赤みを強く」「明るさを強調したい」などの要望があるケースも少なくない。発売したカメラ・キットは、こうした要望に応える仕組みを用意している。例えば、撮影した映像/画像の明るさやコントラスト、色相、ホワイト・バランス、露光時間などは、UVCの仕組みを利用することで調整可能だ。つまり、パソコン上でパラメータを設定すれば、USBインターフェース経由で変更できる。
 さらに、UVCで対応していないパラメータを設定/変更する拡張機能も用意した。USB3.0コントローラーICのファームウエアを書き直したり、そのICのレジスタを直接変更したりすることで実現する。この拡張機能を使えば、露出値補正や蛍光灯のフリッカーキャンセル、オートフォーカスのモード切り替えなどを設定/変更できる。
 より詳細な設定を必要とする電子機器メーカーは、ザインエレクトロニクスが提供するカメラ開発キット(CDK)を利用すればよい。CDKを使ってISPのファームウエアを変更し、それをUSBインターフェース経由でカメラボードのフラッシュメモリーに書き込む。そうすれば、自動露光の判断を動き優先にするかゲイン優先にするか、自動露光やオートフォーカスのターゲットを画面のどの部分にするか、色味の調整などを実行できる。
 このほか、発売したカメラ・キットには、カメラモジュールの個体差を調整する機能を用意した。一般にカメラモジュールは、CMOSイメージセンサーやレンズの特性にばらつきがあるため、色味や明るさ、レンズのシェーディング特性などが個体ごとに違う。そこで今回は、カメラモジュールの特性を測定し、その結果から求めた補正係数をカメラモジュールに内蔵したEEPROMに書き込んだ。システム起動時に、ISPがこのデータを読み込み、出力された映像/画像信号を補正することで、カメラモジュールの個体差を抑え込む。「用途によっては撮影した映像の微妙な色の違いも許されない。このため、そうした個体差の調整に非常に多くの時間を費やしているのが実情だ。しかし、今回のカメラ・キットを使えば調整作業が不要になる」(桑山)という。

品ぞろえを拡充へ

 カメラ・キットはすでに、米Digi-Key Electronics社のインターネット通販サイトで販売を始めている。価格は約2万8000円である。<購入サイトはこちら
 今後は、カメラ・キットの品ぞろえを拡充する計画である。具体的には、搭載するCMOSイメージセンサーの特性が異なるカメラ・キットを製品化する考えだ。「今回のカメラ・キットは、画素ピッチが約1.1μmと小さいモバイル機器向けCMOSイメージセンサーを採用したため、暗い場所で撮影するケースが多い監視カメラなどのアプリケーションには最適とはいえない。次期製品では、画素ピッチが大きいCMOSイメージセンサーを採用する予定である」(桑山)という。

以上
 

※より詳細な情報が必要な方ははこちらもご参照ください
13M pixel PDAF UVC Camera (THSCU101) — THine Solutions