THine Value メタルから光、そして空間へ-拡がるIOHA:Bの接続方式

2026.04.21
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 ある用途に向けた半導体デバイスでも、市場に浸透していくと、当初はあまり想定していなかった用途で使われ始めるケースが少なくない。特に、汎用性が高い半導体デバイスほど、そうした事態が起こりやすい。
 ザインエレクトロニクスのシリアル・トランシーバIC「THCS253A/254A」も、そうした汎用性が高い半導体デバイスの1つである。このシリアル・トランシーバICは「IOHA:B(アイオーハブと発音)」という製品シリーズ名で知られており、このICを使えば映像信号や画像信号、汎用入出力(GPIO:General Purpose Input Output)信号、I2C信号などの雑多な信号を1つに集約して2ペアの差動ケーブルで送れるようになる(図1)
 
図1 IOHA:Bで想定される活用シーン

 つまり最大35本の信号線をわずか2ペア(4本)のシリアル信号に変換できる。このケーブル本数を削減することで得られるメリットは非常に多い(表1)。例えば、ケーブルの束を細く軽くできること、ケーブルを接続する作業を簡略化できることなどである。
 
表1 IOHA:Bの接続方式 

 当初、ザインエレクトロニクスではIOHA:Bの用途として、プリント基板間の接続や、電子機器間の接続を想定しており、具体的なアプリケーションは産業機器や医療機器、測定装置、製造装置、ディスプレイ・システムなどを考えていた。もちろん、この想定は正しく、こうしたアプリケーションを中心に採用が進んでいった。

光ファイバ伝送とミリ波通信を採用

 ところが、こうした市場が拡大していくとともに、一部のユーザーから異なる使い方を望む声が数多く届いた。例えば、「100m程度の長距離伝送を実現したい」「EMC(Electro Magnetic Compatibility)耐性を高めたい」「送信と受信の間で電気的絶縁を確保したい」「防塵や防滴、防塩に対応したデータ伝送を実現したい」「非接触な接続で機械的なストレスを排除したい」「脱着可能なコネクタ接続を実現したい」などの要望である。いずれも要望も、一般的な差動ケーブルを使っていては応えられない。そこでザインエレクトロニクスでは、IOHA:Bに光ファイバ伝送(AOC:Active Optical Cable)やミリ波通信を組み合わせたデモキットを開発した。すでに、こうしたデモキットは展示会などで披露している。
 実は、IOHA:Bは、光ファイバ伝送やミリ波通信との相性がとても良い。光ファイバ伝送であれば、IOHA:Bのデータ出力部に光トランスミッタ(投光器)、データ入力部に光レシーバ(受光器)を取り付け、光ファイバを接続するだけ。これで2本の光ファイバによる双方向のデータ伝送(全二重通信)を実現できる。ミリ波通信も同様だ。IOHA:Bのデータ出力部にミリ波用トランスミッタ(送信器)、データ入力部にミリ波用レシーバ(受信器)を取り付けるだけで、ミリ波による双方向データ伝送(全二重通信)が可能になる。
 光ファイバ伝送を採用すれば、例えば最長100m程度のデータ伝送が可能になり、監視カメラで撮影した映像を少し離れた場所にある制御室に送るなどの使い方が可能になる。一方でミリ波通信を採用すれば、機械的なストレスがない非接触な接続や、脱着可能なコネクタ接続などを実現できる。この結果、製造ラインを流れてくる仕掛中の電子機器に機械的なコネクタを接続することなく非接触でテストしたり、カメラ機能を電子器本体から着脱可能にすることでデザイン性を高めたりすることなどが可能になる。
 加えて、光ファイバ伝送やミリ波通信を採用すればEMC耐性を高めたり、電気的絶縁を確保したりすることも可能だ。さらにミリ波通信を使えば、防塵や防滴、防塩に対応したデータ伝送も実現できるようになる。

光空間伝送で360度回転を実現

 しかし、光ファイバ伝送やミリ波通信とて万能ではない。IOHA:Bに光ファイバ伝送やミリ波通信を組み合わせただけでは、ユーザーの要望に応えられないケースが存在するのも事実だ。その代表的なケースが次の2つである。
 1つは、「ミリ波通信でワイヤレス化したいが、できる限り手間を省きたい」というケースだ。一般に、電波を使い場合は、電波法に基づく技術基準適合証明(技適)を取得しなければならない。その取得に、ある程度の手間がかかってしまう。
 もう1つは、「インターフェース部を回転させる機構を導入したい」というケースである。差動ケーブルを使ってもスリップリングなどを実現できるものの、摩耗などによる寿命問題がつきまとう。
 この2つのケースに対応するため、ザインエレクトロニクスは、新しい接続方式に対応したデモキットを開発した(図2)
 
図2 IOHA:Bに光空間伝送を適用したデモキット・ブロック図

 採用した接続方式は光空間伝送である。光空間伝送とは、レーザー光を空間に投光し、それをフォトダイオードで受光してデータを送受信するもの。つまりワイヤレスの接続方式である。伝送可能な距離は最大50mmと短いものの、伝送速度は最大4Gビット/秒に対応できる。
 ただし単純に、IOHA:Bのデータ出力部に一般的なレーザーを、データ入力部のそれぞれに一般的なフォトダイオードを取り付けるだけでは360度回転に対応できない。双方向データ伝送(全二重通信)に対応する必要があるからだ。レーザー光は直進するため360度回転させると、ミリ波通信と同様にレーザーとフォトダイオードが対向しなくなる。そこで今回は、特殊な形状の光デバイスを採用した。具体的には、米Broadcom社の光トランシーバ「AFBR-FS50B00」である(図3)
 
図3 今回採用した光トランシーバ

 この光トランシーバは真上から見ると、中心部に円形の垂直共振型面発光レーザー(VCSEL:Vertical Cavity Surface Emitting Laser)が配置され、その外側にフォトダイオードを同心円状に置いた構造を採る。この光トランシーバを2個、インターフェース部の両側に対向させて実装する。レーザー光はわずかに広がりながら空間を伝搬し、対向したフォトダイオードで受光するという仕組みだ(図4)。従って、対向する光トランシーバを結ぶ直線を軸とした回転であれば、360度回してもデータ伝送が途切れることはない。もちろん電波を使わないため、技適を取得する作業から解放される。
 
図4 光空間伝送デモキット外観

 IOHA:Bと光空間伝送の組み合わせがターゲットとするアプリケーションは大きく3つある。1つ目は、回転式コネクタであるスリップリング。2つ目はロボットの関節。3つ目は着脱可能なカメラやディスプレイである。こうしたアプリケーションに適用すれば、複雑な機械構造を使うことなく、回転部に対して高速なインターフェースを簡単に実装できるようになる。
 もちろん、この3つ具体例のほかにも適用可能なアプリケーションはたくさん存在するはずだ。もしアイデアをお持ちの方がいらっしゃれば、ザインエレクトロニクスに是非コンタクトしてほしい。一緒に新しいアプリケーションを生み出していきたい。

以上